FC2ブログ

記事一覧

静けさの復習(95)

(写真・時本景亮)――すこし気が早いけれど、冬がきたらひまわりを植えよう。 ぼくは提案する。――ぼくはまだ冬にひまわりを見たことがないから、見てみたいんだ。――ええ、冬になったらひまわりを植えましょう。 こいびとが同調する。――ぼくは冬、見たいんだ。――ええ、わたしも冬、見てみたいわ。――いっそどの花も季節をまちがえてしまえばいい。 ぼくは心からそう願った。――ねえ、なにもそんなものを望まなくたって。 こいびと...

続きを読む

静けさの復習(94)

(……魚にもまぶたがあればいい。まぶたがない魚はいつどんなふうに泣くのだろう、泣けばいいのだろう。ぼくたちはまぶたがあるから泣けるのだと思う。まぶたがあるから涙を閉じ込めていられるし、涙を流すこともできるのだ)...

続きを読む

静けさの復習(93)

 ぼくたちは、いまにも西日に溶け込んでしまいそうな、どこかいたいけな海辺を歩きながらも、ときどき足もとに視線を落として、記憶のかけらを――ぼくたちにとってもっとも切実な記憶のかけらを――探し求めた。流木、ビール瓶、食後のプリンカップ……。――それにしてもなぜ椅子がこんなにもたくさんあるのだろう? ぼくはこいびとに向かっていった。こいびとは、聞こえたのか聞こえなかったのか、ただじっと沖のほうを見つめている。...

続きを読む

静けさの復習(92)

 まちのあちこち――建物や看板や路上――に、飛び去ったあとの鳥の影が残っていて、ぼくにはそのすべてがカラスのようにしか見えないのだけれど、こいびとにはそのすべてがアラビア文字のようにうつくしいのだそうだ。(海が見たいね)(うん、海が見たいね) ……考えてみれば、素性の知れない異性に恋をするのも一種の記憶喪失のようなものかもしれない。相手のことをなにも知らないまま――だからこそ、ともいえるが――関心を抱き、ま...

続きを読む

静けさの復習(91)

(写真・時本景亮) こいびとはすぐさま財布や化粧ポーチなどをエコバッグにつめて外にでた。ぼくも財布をジーンズの尻ポケットにねじ込みながら家の鍵を郵便受けのなかに突っ込んだ。 小学校の近くの空き地にたこやき屋ができていた。たこやきとたいやきとやきそばが売られている。店主と目があった。――たこやき、食べる? とこいびとに訊くと、こいびとはちいさくうなずいた。 で、ぼくたちは一パック六個入りのたこやきを分...

続きを読む