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記事一覧

響けよ、愛しのブンガク(十五)

       十五 また一つ、ブンガクが教師だったころの思い出を、思い出した。どうして記憶はモグラみたいに予想だにしない場所から出し抜けに顔を覗かせるのだろう。とても不思議。 あれは小学校六年生のころ、確か卒業式を二カ月後に控えた、雪がさかんに降る日だった。 創造する心。書き初め。窓の外の銀世界。教室の隅の、ストーブの上のやかん。 そうそう、習字の時間のことだ。わたしたちは半紙に「創造する心」とい...

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響けよ、愛しのブンガク(十四)

       十四 あくび――。 わたしが長々としゃべると十中八九、彼は眉間に皺を寄せてあくびを噛み殺す。その都度わたしはますます饒舌になるのだが、しかしそれは何も依怙地になっているわけではなく、ただただ彼のあくびを噛み殺す仕種を見ていたいという単純明快な行動理由なのである。つまり、彼は、わたしに不毛な言葉を吐き出させるほどの魅惑的な「あくびの噛み殺し方」を熟知しているのである。 よってわたしは、「...

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響けよ、愛しのブンガク(十三)

十三 一週間後、千明から手紙が届いた。それは予期しない、うれしいプレゼントだった。〈先日、金縛りにあいました。はじめてのことです。〉という突拍子もない書き出しに、わたしはたまらず吹き出した。右上がりの自由で奔放な筆致。便箋から立ちのぼる知らない土地の香り。人に手紙をもらったのは、いつぶりだろう? わたしはそんなことを思いかえしながら読みはじめた。〈昼間、宿泊先の古い侘びしい部屋でうとうとしてたら、...

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響けよ、愛しのブンガク(十一、十二)

       十一「もしもし? 吟子?」 四度目のコール音のあと、甲高い男の声。「吟子なんだね。うん、そうかそうか」 声の後ろ側では朝の職場の騒がしさ忙しなさが入り乱れている。 わたしは息をのんで目をつむる。こめかみのあたりが、ぴくぴくしている。「今はちょっと手があかないんだけどね、うん、でも、吟子が来いっていうのなら行くよ。……そうだな、昼ごろにはそっちに行けると思うんだけど、正確なことはわからな...

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響けよ、愛しのブンガク(十)

       十 五日ぶりに公園へ行くと地球バスは見事に完成していた。青一色だったボディが、とにかく地球の絵で埋まっているのだ。 わたしは感動を覚えた。ここまでわたしの美的センスをくすぐる絵がこの世の中にあったのかと、しばし見とれた。 気持ちをそのまま伝えようと地球バスに行ったが、しかし車内にブンガクの姿はなかった。それどころか荷物らしいものが一切合切なくなっていた。数日前に見た光景とは明らかに違...

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