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タイムマインド(潤一編)(72)

「しっ! 声がでかいって!」
 僕は即座に人差し指を口もとにあてた。
 翔ちゃんは決まりが悪そうな顔で前方の宮崎を見てから、
「なんなんだよ、その変態じみたお願いはよぉ」
「勘違いしないでよ。……あることをたしかめたいだけなんだ」
「宮崎のパンツの色を、か?」
 宮崎初美が愛子さんや愛美の生まれ変わりかどうかを知りたいんだ、と、僕は慌てて言った。
「スカートをめくれば、それがわかるのかよ」
「うーん……確信があるわけでもないんだけど、でも、いちおう見てみたいんだ。体育服はジャージだし、宮崎は、水泳の授業には参加しないし――なかなか見る機会がないんだ。ちなみに、左足が見えるようにめくってほしい」
「見てみたいって、いやらしいな」
 僕がむっとすると、翔ちゃんは、冗談だっつーのと言って、笑った。
「わかったよ、わかった。宮崎のスカートをめくってきてやるよ」
 翔ちゃんは学生鞄を肩にかけ、宮崎初美の方に向かって歩を進める。
 僕は彼を追いかけながら、ふと疑問を口にする。
「なんで俺がやらなきゃいけねぇんだよ、とか言って、いやがると思っていたのに──素直だね」
「だってよ、いつも結局、俺がやるはめになるだろ?」
「よくわかってるね」
「長いつき合いだからな」
 ……長いつき合い、か。初瀬惣一と大竹勝彦のときから、というニュアンスがふくまれているような気がして、僕はうれしかった。
「スカートめくりの天才、長谷川翔太、行きますっ!」
 翔ちゃんは声高に宣言して、駆け出した。
「見たいのは左足だからね!」
 身の危険を感じたのだろう、宮崎は立ち止まり、緩慢な動作でこちらを振り向いた。顔には困惑があった。
 翔ちゃんは「とりゃー」だか「おりゃー」だかよくわからない奇声を発して、腰をかがめた。つぎの瞬間、チェックのスカートがふわりとめくれた。
 僕は目を凝らし、彼女の左太ももを見つめた。
 宮崎は意外にも女の子らしい声を上げて、両手で素早くスカートを押さえた。
「ピンク色、しっかりと拝ませてもらったぜ!」
 翔ちゃんは恥ずかしさを隠すために大げさな口調で言った。
 宮崎は、しばらくの間、翔ちゃんをじっとにらんでいたが、いきなり「最低!」と吐き捨てて、足早に去っていった。
「……なんだよ、ノリが悪いよなぁ」
 翔ちゃんは泣き笑いの顔だった。けっこう傷ついたみたいだ。
「それで、たしかめられたか?」
「うん、信じられないけど──あったよ」
 僕らは歩みを再開した。
「何があったっていうんだよ。俺、がんばったんだから、教えろよ」
「……左の太ももに、痣があるかないか、知りたかったんだ」
「痣?」


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