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タイムマインド(潤一編)(68)


       十九

 見覚えのある街並みが目に飛び込んできた。たった一泊二日の旅だったけれど、ひさしぶりに帰ってきたかのような心境だ。台風は一夜にして遠ざかったようだが、名残の風と雨が吹いていた。その中、人々は急ぎ足で駅に吸い込まれていく。スポーツバッグを肩にかけ直し、僕は人の波に逆行して、広場の隅っこに建っているコンビニへと駆け込んだ。
 僕はビニール傘を買い、すぐに店から出ようとしたが、そこでふと、母のパート先をのぞいてみようかと思った。
 ──母さんはどんな感じで働いているのだろう。
 客が店内に入れ代わり立ち代わりやって来た。鳥取にももちろんコンビニがあったが、こんなにもせわしくなかった。見慣れている光景なのに、鳥取と比較すると、都会の人間は何かに追われているように映る。その「何か」とは時間かもしれないし、仕事かもしれない。もしくは悪魔に取り憑かれているのかもしれない。
 僕はどうだろう、と心の中でつぶやきが漏れた。もしかすると、僕もせかせかと歩きまわっている人間の一人ではないだろうか。とくに宮崎初美と出会ってからというもの、時間の流れが急激に早くなったような気がする。僕は冷静さを失っているようでもある。河名愛の気持ちをないがしろにして、宮崎のことばかり考えているのだ──とても正常とは言えない。僕は本当に最低なやつだ。宮崎をどうやって振り向かせるか、どうやったら興味を持ってもらえるのかと、このごろの僕は必死だ。そして、宮崎初美を奥田愛子や早川愛美の生まれ変わりにさせたがっている。
 たとえ彼女が生まれ変わりだとしてどうなるのだ、と自問する。
 すぐに自分の内面から答えが返ってきた。宮崎初美が、彼女らの生まれ変わりならば、それは運命ではないか、と。
 そうなのだ、彼女と僕は結ばれなければならないのだ。じゃないと、惣一や惣次の思い、願いを捨ててしまうことになる。僕と宮崎は運命の恋人であって、今世こそ恋を成就させなければならない。
 僕は甘美な気持ちで外に出た。風はおさまりつつあったが、細かい雨は執拗に降りつづけていた。


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