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タイムマインド(潤一編)(67)

 鳥取駅で翔ちゃんのお土産──二十世紀梨のゼリーとまんじゅう──を買い、夜行バスに乗り込んだ。車内はほぼ満席で、僕のとなりは厚化粧のおばさんだった。これから十二時間近く、この箱の中にいなきゃならないのかと思うと、辟易する。窓の外では――木の枝が風でしなり、段ボール箱やプラスチックのゴミ箱、赤白のコーンまでもが勢いよく転がっていて、台風の強さがうかがえる。
 読みかけの小説を開いてもうまく集中できない。そこで、僕はメモ帳に初瀬惣一と惣次の軌跡を書き込むことにした。いい暇つぶしになるし、このままだと話がこんがらがりそうなので、要点をしぼってまとめておこうと思ったのだ。
 前世療法でつかんだ情報と、鳥取で聞いた情報を照らし合わせながら、作業を進めた。
 雨が横殴りに窓をたたきはじめた。僕は頼りない電気スタンドの光に照らされたまま記憶を文章にしていった。
 ざっとこんな感じだ。

    初瀬惣一
 昭和二十五年 (一九五〇年)    十九歳
 四月、恋人の奥田愛子と別れる。

 昭和二十七年 (一九五二年)    二十一歳
 六月、結婚。
 翌年三月、長男忠人が生まれる。

 昭和三十一年 (一九五六年)    二十五歳
 七月、妹の静子が大竹勝彦の家に嫁ぐ。

 昭和五十一年 (一九七六年)    四十五歳
 二月、初瀬忠人、飯田慶子と結婚。
 四月、惣一、奥田愛子と再会。
 翌日、二人は心中。

    初瀬惣次
 昭和五十二年 (一九七七年)
 八月、惣一の魂を受け継いで、忠人と慶子の子として同家に生まれる。

 平成四年   (一九九二年)    十五歳
 二月、サッカーの試合中に脊髄損傷。
 十一月、退院。しかし、二度と歩くことはできない。
 一週間後、同級生の早川愛美に告白。
 十二月、大竹勝彦、死去。享年六十一。

 平成五年   (一九九三年)    十六歳
 三月、中学校卒業。
 同月、不慮の事故に巻き込まれ、早川愛美とともに死亡。

 そしてその年の十月には、惣一と惣次の記憶をしたがえて、僕が生まれるというわけだ。
 惣一と惣次の人生は確実に僕の中に存在していて、ときどき僕の体を乗っ取ったり、感情までも支配したりする。そのたびに、僕は僕でなくなる。
 僕は電気スタンドの明かりを消して、シートにもたれた。
 ──もし宮崎初美が、奥田愛子と早川愛美の生まれ変わりだったら……。
 心中してまで来世に賭けた恋。恋を実らせたものの、突然の不運によって死んでしまった二人。僕には、いったいどんな恋愛が待っているのだろう。
 ──うちらは一本の線で結ばれているのだと思うんです。
 ふいに奥田愛子の言葉を思い出した。
 彼女は惣一との関係を線にたとえた。別々の線ではなく一本の線、蛇行していようと螺旋状だろうと、一つの線。たしかに、惣一の魂と愛子の魂は同じ流れに乗った。そして惣次も愛美も。
 僕の線はどうだろう。どんなかたちを描いていくのだろう。惣一たちのように、お互いの思いが崩れることのない、美しい直線だろうか。あるいは、惣次たちのように、終わりがぷつりと切れている、意地悪な線だろうか。
 僕はメモ帳にあらゆる線を描いた。


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