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タイムマインド(潤一編)(64)

 ちょっと待って、と慶子さんは慌てて言った。
「潤一君は、惣次の記憶だけしか知らないんでしょう? だって、惣次の生まれ変わりなんでしょう? 静子おばさんは、まるで潤一君の中に、お義父さんまでいるとでもいうような言い方だけど……」
「実は……惣一さんの記憶もあるんです。前世療法で、思い出したんです」
 しかたなく、僕は本当のことを打ち明けた。
「昨日、惣次君の記憶だけを話したのは、話がややこしくならないようにしたんです。惣一さんの記憶もあるといえば、そのぶん、わかりづらくなるだろうし、こんがらがってしまいそうだったので……」
 そう、と、慶子さんは消え入りそうな声を漏らした。そして静子さんに顔を向けた。
「おばさんは、わかっていたんですか。その、潤一君は、お義父さんの生まれ変わりでもあるって」
 静子さんはやわらかくほほえんで、
「初瀬惣一と奥田愛子は、惣次君と愛美ちゃんに生まれ変わった……。それを踏まえて考えれば、潤一君は、惣一と惣次君の魂を引き継いでいると思うでしょう?」
 慶子さんは、うつむいた。何やら考え込んでいる様子だった。
「……でも、お義父さんの魂が惣次に移っているのは、少し癪です。卑怯だとは思いませんか?」
「卑怯?」
「お義父さんは生まれ変わりを信じていたのでしょう。だからこそ自分の名前の『惣』の文字を取って、孫につけろと命令した。忠人さんからそう言われたとき、私、猛反発したんです。自分たちの子どもなんだから、お義父さんの意見を聞く必要はない、と。それというのも、私は、ひそかに考えていたんです。男の子が産まれた場合は、しゅうじ、まもる、こうじ──いろいろと案を出していたんです」
 場の空気が薄くなったような、そんな息苦しさを僕は感じた。慶子さんの言うことが理解できるからだ。たとえ義理の父だとは言え、我が子の名前を勝手に決められるのはいやだろう。
 僕たち三人はうつむいたまま、時間だけが静かに流れていった。


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