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タイムマインド(潤一編)(58)


       十七

「たんまりとおかわりしていいからね」
 初瀬惣次の母──慶子さんはうれしそうに炊飯器からごはんをよそってくれた。
 あれからすぐに忠人さんに連れられて僕は初瀬惣次の家に行った。ところどころ立て直してあるようだが、そこはまさしく僕が前世体験で見た場所と同じだった。長屋も車庫もみそ蔵も裏山も、すべてなつかしかった。僕が感傷にふけっていると、忠人さんから事情を聞いた慶子さんが駆け寄ってきた。
 僕はじっくりと時間をかけて、慶子さんにも、自分は初瀬惣次の生まれ変わりだと説明した。最初、慶子さんは僕の話をまったく受け入れてくれなかった。前世や来世なんて迷信に決まっていると言い張った。が、ねばり強く説明しているうちに、彼女は突然泣き出したのだ。僕は慶子さんにも、ただいま、と心から言った。
 そんなこんなで、今は夕食をごちそうになっている。
「潤一君、だったな」
 真向かいに座っている忠人さんが、瓶ビールの栓を抜きながら言った。
「はるばる東京から来てくれて、本当にありがとう。果樹園ではすまんかったな。君の話をろくに聞かんで、あんなにも怒ってしまって」
「いえ、しかたないですよ。いきなり生まれ変わりだなんて言われても、ぴんとこないでしょうから」
 彼はぐいっと酒を呷ってから、
「……実はまだ半信半疑なんじゃ。君には申しわけないけどな」
 僕は悲しい気持ちになったものの、しょうがないか、と納得した。
「でもなぁ、やっぱり君は惣次の生まれ変わりだ。勘違いでもいいけぇ、そう思いたいんじゃ。どんなかたちにしろ、惣次が帰ってきてくれた……それでじゅうぶんだわい」
 彼は笑った。
「前世……療法だっけ。それは東京では流行っておるんか?」
 まあ、そうですね、と僕は首肯した。そういっておいた方がいいだろうと思ったからだ。
「うちらはあまりテレビを観ないからねぇ」
 と慶子さんが言った。
 僕は二人から視線をはずして、みそ汁をすすり、カボチャの煮物を頬ばった。惣次の魂はどこかに隠れてしまったのか、僕は、早くも居心地の悪さを感じていた。よく考えてみれば、連絡も入れずに他人のうちに押しかけるとは、非常識にもほどがある。僕は礼儀知らずの自分が恥ずかしくなった。
「何もこしらえてなかったから、こんなものしかお出しできなくてごめんなさいね」
「いえ……すごくおいしいです」
 僕はますますうつむいてしまう。
「あと、食べたら、お風呂に入ってくれてかまわないからね」
「え?」
「今夜は泊まってくれるでしょう。惣次のことはわかったから、今度は、潤一君のことを知りたいし」
「あの……泊まってもいいんですか?」
 僕は遠慮気味にたずねた。
「何言ってるんだ。君は惣次の生まれ変わりなんだから、もはや家族の一員だよ」
 忠人さんは大様に言った。
 今夜は野宿でもしてまた明日来ようか、と考えていた僕にとっては願ってもいない展開だった。いろいろと聞きたいことや調べたいことがあったので、都合がよかった。僕はほころびそうになる顔を引き締めて、お世話になります、と頭を下げた。


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