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タイムマインド(潤一編)(27)

 つぎの日も、またつぎの日も、早川は病院にやって来た。会いたい、彼女の顔を見たい、話したい。しかし、自分の足のことを考えると……会いたいけれど、会えなかった。
 ある日、早川は目の前に現れた。あまりにも劇的に現れたので、自分の目が幻影を映し出しているのかと一瞬疑ってしまった。僕は耳からイヤホンを外しテレビの電源を切った。腕の力だけで、上体を起こした。
 早川……。僕はそう言ってから、口ごもった。何を言えばいいのかわからなかったからだ。
『お見舞いに来ました』
 早川は言った。表情は笑っているけど、どこかぎこちない。
 早川は鞄から何かを取り出した。それは一冊のノートだった。もしよかったら、交換日記をしない? と言って、僕の目の前に差し出してきた。
 交換日記……。僕はつぶやいた。
『うん、病院だと退屈するだろうと思って。暇なときに書いてよ』
 僕はノートを受け取り、最初のページを開いた。惣ちゃんがまたサッカーできますように! と、書いてあった。その下には、ボールを蹴る僕のイラスト。僕は泣きたくなった。
 ごめん。僕は言った。ごめん。もう一度、言った。
 早川は困った表情を浮かべて、病室から出ていった。
 ごめん。心の中でつぶやいた。ごめん、僕、もうサッカーできないんだ。


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