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タイムマインド(潤一編)(22)

『静子は、元気か』
『あ……ああ。四十を越えても、なんも病気にかからず、ぴんぴんしとる』
『よろしく言っといてぇや』
『そんなこと、言えるか、あほ。これから死ぬ者のことなんか……』
 勝ちゃんの声はふるえていた。
『なあ、おまえらはそんな道しか選べんだか? どうやって再会したか見当もつかんけど……いっしょになればええがな』
『いっしょになるために、選んだ道なんだ』
『なんでだいや。心中じゃあいっしょになれんわ。いっしょだと感じるのは落ちとる間だけで、死んだらお陀仏だがな。なーんも、わからんようになるわ』
『それは違う』
『……どういうことだ?』
『勝ちゃんは、生まれ変わりを信じるか』
 生まれ変わり。勝ちゃんはぼそっと言った。
『そう、僕と愛子さんは生まれ変わって、また来世で会うんじゃ』
『何、寝ぼけたことを抜かしとるだ。気はたしかか? おいっ!』
『僕は正気だで』
『だいたいなぁ、生まれ変わりなんてあるわけなかろう』
『ある。あるから、言ってるんだ』
 そう、あるのだ。生まれ変わり──前世と来世は存在するのだ。勝ちゃん、と、僕は力強く呼びかけた。
『今から言うことを黙って聞いてくれ』
 勝ちゃんのため息が聞こえた。
『……言うてみい』
 僕は友人に向かってうなずいた。
『愛子さんと約束していることがある。それは、孫に名前をつけること。彼女には、娘がいるらしい。勝ちゃんも知っているように、僕にも息子がいる──僕は、息子の忠人に、こう頼むつもりだ。「孫ができたら、孫の名前に、惣、の文字を入れてくれ。必ず」と。そして、愛子さんには孫娘の名前に、「愛」の文字を入れてもらう』
『何か意味があるんか?』
『ある、と言えばあるが、ない、と言えば、ない。要するに気持ちの問題なんだ。僕は、まったくの他人には生まれ変わりたくない。前世のできごとを憶えているとしても、顔も違う名前も違うとなると、違和感がある。自分じゃない気がする。だから、自分の孫に生まれ変わるつもりなんだ。僕も愛子さんも。同じ家系だから、別人というわけではない。僕は、僕に似た人物に生まれ変わって、愛子さんとやり直すつもりだ』
『おまえには罪悪感ちゅうもんはないんか。簡単に家族を見捨てて……』
『たしかに、悪いと思っとる』
『思っとらんっちゃ! おまえらは自分のことしか考えとらんがな!』
 勝ちゃんは怒鳴った。
 しかし、と僕は思った。しかし、もう引き返せない、引き返すことなんてできない。愛子さんと再会し、抱き合った瞬間に、得体の知れない何かが動き出してしまったのだ。
『すまん、勝ちゃん』
 なぁ、惣一。勝ちゃんは懇願するように言った。
『考え直してみいや。時間をおいて、じっくり考えてからでも遅くはない。今すぐ俺のうちに来い。酒でも飲みながら話し合おうや』
『もう鳥取には戻れん』
 愛子さんは離婚しているのだ。彼女が戻れないのだから、僕も戻ることはできない。そう言おうとしたが、僕はぐっと気持ちを抑えた。たとえ親友でも、離婚の話は言わない方がいいと考えたからだ。
 勝ちゃんは嗚咽まじりにまくし立てた。
『おまえら、二人とも子どもだわ。幼稚すぎるわ。十九のときからぜんぜん成長しとらん。どうしようもないばかだ。俺は……俺は、知らん! どこにでも行けぇ! 勝手にせぇ!』
『堪忍してくれ』
 僕は涙がこぼれ落ちる前に受話器を置いた。


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