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タイムマインド(潤一編)(12)

 日が傾き、真っ赤な空が濁っていくまで、僕と翔ちゃんは前世療法についてしゃべった。翔ちゃんは催眠に際しての──これもお父さんからの請け売りだそうだが──説明をしてくれた。
 催眠と聞いても、いまいちぴんとこない、もしくは怪しげに思う人が大半だ。しかし、マスメディアで報道されているような暗いものではない。実際の催眠とは、単純に言うと、意識が一点に集中した状態に誘導するだけだと、翔ちゃんは言った。考えごとをしているとまわりの音が聞こえなくなったり、何時間も過ぎていたり、という体験は誰にでもある。催眠とは、意図的にそういう状態に持っていく方法であって、決して魔法でもなんでもないらしい。
 僕は、もし催眠状態から抜け出せなくなったらどうすのか、とか、催眠状態に入ったら意識はないのか、と聞いた。翔ちゃんは「そんなこともわからねぇの」と眉をひそめて言った。車に撥ねられて昏睡状態に入るわけじゃないんだから、催眠から出られなくなるなんてありえない、催眠を受けている最中でも意識はしっかりしている――。
 僕は信じやすいタイプなのだろうか。あるいは翔ちゃんが親友だからか、彼の言う言葉には説得力があった。
 突然、僕のケータイが軽快に鳴った。
「もしもし。……長谷川ですけど、翔太はまだ潤一君のところにいる?」
 翔ちゃんのお母さんだった。翔ちゃんは顔をしかめ決まり悪そうにした。
「ごめんなさいねぇ、長いことお邪魔させてもらって……お母さんにもよろしくお伝えください。ちょっと、翔太に代わってもらえますか」
 僕は、はいと言って、翔ちゃんにケータイを渡した。
 何時だと思ってるの。夕ご飯、冷めちゃうわよ。受話口からきびしい声が聞こえた。まだ七時じゃん、と翔ちゃんは唇をとがらせて反論したけど、結局、折れた。
 翔ちゃんは苦笑して、
「じゃあ帰るわ」
 と言った。渋々といった感じだった。
 僕も苦笑した。僕のうちもそうだから、気持ちはわかる。休みの日に出かけていると、お母さんは過剰に心配する。いつだったか学校で友だちとサッカーをしているとき、お母さんが血相を変えてやってきて、恥ずかしかったことがあった。そのとき僕はひどく腹が立った。小学六年生を見下しすぎだと思ったのだ。
 親のルールは、僕を窮屈にさせる。
 翔ちゃんを見送ってから、リビングに行った。お母さんは台所のテーブル越しにこう言った。
「翔太君がいつまでいるのかと思って、心配していたわ。どういう躾をしたら、あんなに長居するようになるのかしらねぇ。潤は他人様のおうちにいつまでもいたらだめよ。迷惑なんだから」


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