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タイムマインド(愛美編)(37)

「あなた!」
 静子さんはとがめるような口調で言ってから、
「気にしないでね、愛美ちゃん。ときどきおかしなことを言うのよ」
「だから、ボケとらんと、なんべんも言っとるだろ」
 大竹さんは打って変わって厳然とした目つきをした。
「……当時は、わしも、惣一があんなことを言い出すとは思わんかった。今も半信半疑じゃ。だからこそ、この、愛美さんを見てから、判断しようと思ったんじゃ」
「判断するも何も、愛美ちゃんは愛美ちゃんで、愛子さんは愛子さんよ。どう違うというのですか?」
 静子さんは呆れ気味に言った。
「じゃあ、おまえは、惣次も、惣一の生まれ変わりだとは、思わんのかね?」
「あの二人は似てませんよ」
「いいや、よう似とる。内気なところや、顔つきがな」
「それはただの遺伝ですよ。子が父親よりも祖父に似ることだって、あるじゃありませんか」
「しかしな、物理的なもんじゃなく、なんちゅうか……見えないもの、魂からにじみ出とる雰囲気が、まったくおんなじだと思うんだがなぁ」
「あの……」
 私は二人を交互に見た。頭はまだ混乱している。
「どういうことですか? その……生まれ変わり、とか」
「愛美さんは、どこまで知っとるだ? 惣一と愛子さんのことを」
 私は一瞬言いよどんだものの、
「──心中、したんですよね」
「ああ、そうじゃ。あのばかは、愛子さんと心中しよった」
 大竹さんは顔をしかめた。目尻や口もとのしわがよりいっそう深まった。
「奥田愛子……彼女も、惣一を忘れれんかったんだろうな。島根と鳥取に分かれとっても、盈々一水の恋はつづいておったんじゃなぁ。健気というか残酷というか、これ以上とないカップルだわ。お互いが求め合いすぎて、だから、寄り添ったまま身を投げ出した……」
 大竹さんの唇が小刻みにふるえていた。
「ばかじゃ、あの二人は大馬鹿者だわい! むしろ出会わん方がよかったんじゃ……でも、また出会っとる。惣一の魂と、愛子さんの魂が──」
「少しお休みになられた方が……」
 静子さんは心配そうだったが、大竹さんは、おまえは黙っとれ、と一喝する。
「愛美さん、惣次をどう思っとる? 運命的な何かを感じんか?」
 お昼の薄い日差しが病床を照らしていた。
「……私と惣ちゃんがこの土地で出会ったのも、私が惣ちゃんに魅力を感じるのも、運命的と言えばそうかもしれません。でも、よくわかりません」
 私は遠慮気味に話した。
「今はっきりしていることは、私たちはつき合っていて――私はとても惣ちゃんを好きだということです」
 静子さんは一拍置いてから、
「つき合っているの?」
「はい」
 大竹さんは天井を向いたまま、
「おお、そうかそうか。それなら、ええ」
「あなた、もうそろそろお休みになってくださいな。疲れたでしょう」
 静子さんは皮革のバッグからハンカチを取り出し、そっと、大竹さんの目もとをぬぐった。
 最後に一つだけ言わせてくれ、と大竹さんは言って、ゆっくりと私を見た。
「運命とか生まれ変わりとか、あんたらにとっては、どうでもええわな。愛美さんは愛美さんだし、惣次は惣次。勝手に愛子さんや惣一と照らし合わせてしまって、すまんかった。あの二人の未練を考えると、どうにもやるせなくてな、あんたらと結びつけてしまったんじゃ」
 私はほほえんで首を横に振った。内心では、愛子さんの生まれ変わりだという仮説に反発している自分と、何かに乗り移られているような違和感が交錯していた。
「あの世に行ったら、惣一たちに、おまえらの孫は青春を謳歌しとるぞ、と、伝えてやろうかな」
 大竹さんは穏やかな笑みを浮かべて眠りについた。




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