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タイムマインド(愛美編)(31)

「うそ……」
 とうとつに甘い気持ちがしぼんだ。
 ──心中。
 心のグラデーションがすべて消え、暗色に染まった。私はうずくまってしまいそうだった。母が言わないはずだ。静子さんが、惣ちゃんのお母さんが、押し黙るはずだ。
 惣ちゃんの祖父──惣一さんと、愛子お祖母ちゃんが心中したなんて信じられない。もちろん私は二人のことを何も知らない。全然わからない。だけど、心中なんて……簡単には認めたくなかった。
「そりゃ驚くわね。ごめんなさいね」
 静子さんは申し訳なさそうに言った。
「いや、その」
 私はどうにか平静を装おうとする。
「話してほしいって、しつこくお願いしたのはこっちですから」
 室内の温度がいくぶん下がったように感じられた。
 私は聞くべきだったのだろうか、となかば後悔しているが、しかし、ずっとお祖母ちゃんのことが知りたかったのだ。やはり聞くべきだったのだろう、と自分に言い聞かせた。もやもやしているよりはよっぽどましだ。
 ただ、一つだけたしかめたいことがあった。
「お祖母ちゃんが持っていた、あのノートは……」
「兄のよ。うち、見たことがあるから」
 やっぱり。だから、静子さんはあんなに驚いたのだ。突然、兄のノートを見せられたのだから無理もない。
「もういいわよね、この話は」
 静子さんは空になった湯飲みを見つめながら言った。私は二、三回うなずいた。




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