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タイムマインド(愛美編)(21)

 お昼は惣ちゃんのお母さんがお寿司を頼んでくれて、三人で雑談しながら食べた。ここを訪れる前は、いったいどうなるものやらと不安で不安でしかたなかった私も、今はにこにことお寿司をほおばっている。こんなにもいい方向に転がるとは思ってもいなかった。
 惣ちゃんに会えるようになった。彼が一生立てないという事実は静かに、ちくり、ちくりと私を苛んでいたが、しかし、近野君や静子さんのおかげで、前向きに受け止められるようになった。とにかく、くよくよしていても何もはじまらない。惣ちゃんの苦痛が消えるわけでもない。私は彼にしてあげられることに全力を注げばいいのだ。惣ちゃんの笑顔が見られれば、それだけでいいのだ。
「あら、奥田さんのうちの?」
 静子さんが素っ頓狂な声を出した。
 いろいろと考え込んでいた私は会話を聞いていなかった。どうやら私の話になっているみたいだ。
 惣ちゃんのお母さんは口をもぐもぐさせながら、
「ご存じなかったんですか? 奥田愛子さんのお孫さんでしょう。ねえ、早川さん」
「あ、はい」
 突然お祖母ちゃんの名前が出てきて、私はとまどった。
「そうなの? 愛子さんちの」
 静子さんは目を見張った。
「もしかして──お祖母ちゃんのことを知っているんですか」
「まあ、昔、愛子さんの雑貨屋に買い物に行ったりしていたから……」
「お祖母ちゃんは、どんな人だったんですか」
 私は割り箸を置いて、居住まいを正した。
「そうねぇ」
 静子さんは過去に遡っていくような顔つきに変わった。
「一言でいえば、憧れの人だったわ。おしとやかで、だけど、芯はしっかりした人で、器量もよくて……でも、弱点がないところが、弱点だったわ」
「そうなんですか」
 私のお祖母ちゃんは、静子さんでさえうらやむほど素敵な人だったのか。ますます興味がわく。
「あの、お母さんは教えてくれないんですけど、お祖母ちゃんがなんで亡くなったのか知っていますか」
 えっ、と静子さんも惣ちゃんのお母さんも、間の抜けた声を出した。
「聞かされていないの?」
 惣ちゃんのお母さんは眉をひそめた。
 はい、と私は答え、首をかしげた。目の前の二人はとっさに口をつぐんだ。
 ──なんでお祖母ちゃんの話になると黙ってしまうのだろう。
「教えてください、お祖母ちゃんのことを」
 愛美ちゃん、と、静子さんは言った。
「これから話すことは、落ち着いて聞いてちょうだい」
 私はゆっくりとうなずいた。
 ちょっと! と、惣ちゃんのお母さんが間に入ってきた。
「早川さんは、まだ中学生ですよ」
「……来年は高校生ですけど」
 私は言い返す。
「いいえ、まだ早いわ。私は反対ですよ、あのことを言うなんて」
 ──あのことって?
 彼女は口がすべったとでもいうふうに視線をそらした。
「愛美ちゃんは、だいじょうぶ。賢い女の子だから」
 静子さんは大きくうなずいた。そして体の向きを私の方に変えた。
 私は反射的に身構えた。
「よく聞いてちょうだいね。愛子さん──奥田愛子さんと」
 ──愛子さんと。
 私は頭の中で静子さんの言葉を繰り返した。
 ──と?
 引っかかるものを感じた。と、って、何?




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