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比喩を屠る(絵・ひがしもとしろう)

比喩を屠る(絵・ひがしもとしろう)(表)



 Lost
散歩が終わると鳥たちは
日付のようにめくれて
主語のない森に帰る

 マラソン
走っていると少しずつ私が
肉体から引き剥がされていく
引き剥がされて
そのままどこかへ行ってしまう
ただ心臓だけが
地球規模でふくらんでいく

 仮死
月光に輝く地図を拾えば
うつくしい町だとつぶやく仮死
幻の昼下がり
その記憶に仮死はみずから
ひるがえる

   *

(月がきれいだ、
きのうより熟れている)

   *

 家
こんなにも天気のいい日なのに私の家が流れている

 地球儀
まわすとすぐに視線は半周遅れになる

 椅子
椅子に自分が座っている不思議

 寝室
寝室ではもう一人の私が寝ている

 博物館
博物館の前では脳みそのない自転車がずらっと並んで何やら考え事をしている

 駅
、、 、、、、 、
、、、 、 、、

、 、 、、
、、、 、
、、

 円形劇場
円形劇場の喝采に孤独は紛れる
 するとあなたの手袋は床に落ちる

  覚えていなければならないものが
   遠く切ない漆喰のように
 ぼろぼろ剥がれてしまう

 日々のよろこびの中に よろこびを失った色彩

   円形劇場の喝采に孤独は紛れる

   *

(自然はどうして
   楽譜のすべてを
      丸暗記しているのか)

   *

 虹
病床に二重の虹がかかる

 てんたう虫
ぼくの世界では「てんたう虫」が神さまの血を吸っている

 双六
それを投じると私の顔が数字的に変形しはじめる

 月夜
数日前、湖底にしずんだ町は月の魚たちに――まるでひらがなの詩のように――導かれて、ようやく空っぽの駅のホームに到着する

 読書
本との出合いそのものは何千億もの歯車の噛み合いによる奇蹟的偶然であるが、
読書そのものはたったひとつの歯車から成る奇蹟的必然である

 賭け
いつ何を賭けるかが問題ではない
今、この私が賭けられていること、
そのことそのものが問題なのである

 心臓
赤ん坊の原点である。

 赤ん坊
たった今、産まれたばかりの赤ん坊が、母親に一瞥をくれることもなく無表情のまま分娩室から出て、ソファの上でアイマスクをつけて眠っている父親を思いきり、殴る

   *

(まるでことばではないもののように)
(このあかるさはなんだろう?)

   *

 喃語
人けのない夜の水族館に〝ご近所〟を喪失した老人の喃語が少しだけ泳いでいる

 マロニエの木
マロニエの木に見つめられるとすぐに服を脱ぎたくなる

   *

(夜空に吊り下げられた三日月のしたで自転車を漕ぐのはあなたです。あなたはまだ、いとしいひとのほおのうえを走っていることを知らない)

   *

 太陽
太陽は、われわれの省略された裸形である

 蓄音機
森の奥深く、古い蓄音機が幻想の旅に出る

 のっぺらぼう
名づけるべき貌がない

   *

(こいびとの寝息をまたいで窓辺へいく)

   *

 天使
道端に天使が捨てられていた。僕は天使を飼うことにした。三日後、天使は死んでしまった。〈ぼくはかえりみない〉という謎のメッセージを残して。

 天使
すなわち、獣。

 足跡
私の言葉のなかで、盗賊の一味が、あなたの足跡を盗んでいった。
私はあなたの足跡を失ったが、すぐに私はあなたの足跡を獲得した。
(すべて私の言葉のなかで置き換えられていることなのだから)

 白鳥
忘れられたそよ風の記憶に悲しみを織る湖よりそっと飛び立った白鳥の白さ、あの白さ

   *

(風が波を梳くように
沖から岸辺へ
いったいなにを語るのか

そっと、耳をすます)

   *

 小春日
ワンピースのきれはしが蝶になる

 歩く
すなわち不在を自覚すること

 神さま
、の欠片のような
水たまりが、私を空に突き落とす。

   *

(雨でもなく、くもりでもなく、
まして晴れでもない日に、
わたしはひとりぼっち。)



比喩を屠る(絵・ひがしもとしろう)(裏)




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