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群衆(11)(絵・ひがしもとしろう)

群衆(11)(絵・ひがしもとしろう)



 やがて東の空が白み始めた。その現象はまるで聞き届けられた祈りそのものだった。山の稜線からこぼれた朝日の最初の一筋が目にまぶしい。川沿いの道にはまだ霧の切れ端が残り、ゆらゆら揺れている。
 息を吸い込むと、混じり気のない新鮮な空気が私の肺を驚かせた。
 塗装店や梱包資材店、自転車屋や不動産屋、畳屋、靴屋、本屋などのシャッターの前を通り過ぎるたびに、一人、また一人と、口を閉ざし、押し黙ってしまう。中には、目をつむり、肩を落として、完全に群衆の流れに身をゆだねる者もいる。もうそっとしておいてほしい、もう私にかまわないでくれ、という無言のメッセージ、意思表示のようだった。
 薬局の角を曲がると駅の裏口のロータリーが見えてきた。タクシーが一台、停まっていて、それに気がついた運転手が、ああ、ああ、と、うめき声を上げながら、群衆の中から抜け出した。駅員も、警官も、慌てて人をかき分けて外に出る。また幼い日が来る! また幼い日が……と、ピエロはなおも歌っているが、最早、同調する者は一人もいない。




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