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群衆(8)(絵・ひがしもとしろう)

群衆(8)(絵・ひがしもとしろう)



 群衆は、生きている。成長していっている。ひたすら移動し続けることで、人々を巻き込み、人々の言葉を食べている。そう、群衆が欲しているのは、私たちではなく、私たちの言葉なのだ。群衆は、私たちが発する一つ一つの言葉に注意深く耳を傾けながら、復唱し、インプットしようとしているのだ。
 私たちの言葉。
 私たちの言葉を。
 私たちの言葉のみを。
 だから、もしかしたら、群衆の中から脱走した者、野良犬の道を選んだ者は、群衆に言葉を搾取されることに恐れおののいたのではないか、と私は思った。
 群衆は、目抜き通りの終点であるだだっ広い三叉路に行きつくと、一瞬、右か左か迷う素振りを見せたものの、すぐに左に舵を切った。県庁の建物を横目に見ながら、進路はいったい誰が決めているんだ? と亀が呟いた。無論、群衆の意識だ、と私は心の中で答える。女子高生は相変わらず俯き加減に何やら考え込んでいる。茶色いベレー帽の中年女性は口許にうっすらと笑みをたたえている。
 みなさん、聞いて聞いて! 僕たちを誘導しているのは、月の魚だよ!
 前の方で楽しそうに騒ぎ立てる者がいた。
 僕、見たんだ! 見たんだ! 見たんだ! 空中にぷかぷか浮いている月の魚、見たんだ!
 ……なんだあれ、ピエロじゃねえの? 亀が首を突き出して目を見張った。彼の視線の先を追うと、本当にピエロがいた。




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