FC2ブログ

記事一覧

群衆(6)(絵・ひがしもとしろう)

群衆(6)(絵・ひがしもとしろう)



 雨だ。
 ゴム引きのレインコートの男が夜空を見上げながらそう叫んだ。
 雨だ。雨だ。雨だ。
 降ると思っていたんだ。今日は降ると思っていたんだ。昨日からずっと、思っていたんだ。
 雨など一滴も落ちてこない。満月には二日、三日足りない月が輝きを放ち、そこをうまいこと避けながら薄っぺらい雲が流れている。相変わらず風は生温く、額や首筋を不快にする。
 このまま私たちは己を解き放つこともなく、どこかに行きつくこともなく、歩き続けなければならないのか。歩き続ける、あるいは、歩かされ続ける、という、たった一つの行動しかとれないのか。みんな、目が穴ぼこだ、と私は思った。みんな、懸命に何かを主張しているが、目が死んでいる。まるで、暗闇の中の壁に象嵌されたビー玉のように――。
 壊れない茶碗がないように。
 壊れない窓がないように。
 壊れない橋がないように。
 私たちはいつか壊れるだろう。
 私たちは確かに「一」かもしれないが、
 それはばらばらの「一」だ、まとまりのない「一」だ。
 私たちは歩く蛹である。
 死んだ稚魚である。
 漂う離島である。
 寓話であり、詭弁である。




スポンサーサイト



コメント

コメントの投稿

非公開コメント