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十月(飼い猫、透きとおる蛹、地図のしわ)


Fly me to the moon - Ending Evangelion (Versión completa)



(きょうも飼い猫に追いたてられるようにして家をでた。)

   *

だれもがいちように、ついさっき見てきたようにおもいでばなしをおっぱじめるバス停で、しきりにうごめく影の重なりや透きとおる蛹。「釈尊います」という謎のポスターがめくれかかっている。いともたやすく関節をはずすことのできるビニール傘。顔のないものたちが、その症例についてあれこれと論じあっている。

死にぞこない、よりはましだろうけれど、なりそこない、というのもどうかとおもう。いや、もしかしたらなりそこないでさえないのかもしれない。きょうはだれのふりをするべきか。厚みのない、ぺらぺらの人間をおぼれさせるには、そこらへんのみずたまりさえじゅうぶんな水位だ。うっかりするとそこにたましいまで落っことしてしまいそうだ。

空にはどこに目があるのか。どこを見ても目があうようにおもえるし、どこにも目はないようにも感じられる。そしてその目は、ぼくの目と同等であるかどうか。どちらかが俯瞰すれば俯瞰に値するのか、それともどちらかが俯瞰すればもう一方は見あげるかたちになるのか。できれば視線そのものを等式でたばねてしまいたい……空にはたえずこちらのインナーチャイルドをくすぐるなにかがある。

   *

気まぐれにたちよったまちなかのギャラリーには画家しかいなかった。
あなた自身が作品ですか? ときくと、
いや、どうやら絵よりも私のほうが早く来てしまったようですと、
そういって画家はしろい歯を見せた。
画家はさらにポケットからいくつものセミのぬけがらをだしてぼくに見せてくれた。画家の手のひらからこぼれおちたセミのぬけがらが一瞬、さびしい音をたててころがった。

(いっぴきのセミの死骸をランドセルのなかにいれてもち帰った日、あの日、たしかにぼくはとりかえしのつかないあやまちを犯してしまったのだ。しかしそれがなんだったか判然としない。)

地図のしわをのばすようにぼくはあくびをし、伸びをする。このまちが、やさしいあいさつをくりかえすまちだといい。

   *

月明かりに照らされた小道。さざなみのようにススキがゆれ動き、かすかな摩擦音さえもきこえてきそうだった。もうどこにもいきつけないのであれば、せめて来た道をひきかえすことにしよう。




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