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群衆(4)(絵・ひがしもとしろう)

群衆(4)(絵・ひがしもとしろう)



 俺たちはどこへ向かっているんだろう、と亀が呟く。
 どこだっていいですよ、どこだって。私は答える。
 すると、私のすぐ左側にいる、茶髪の女子高生が口を開いた。おじさんたち、接着剤、持ってない?
 どこかで見た顔だなと思ったら、先ほど駅構内の券売機の前にいた女の子だった。私を不審者を見るようにじっと見つめていたときとは違い、ずいぶんと和らいだ目つきになっていたが、カラーコンタクトレンズでも使用しているのか、瞳がやけに青く、薄気味悪い。睫毛もかなり長い。精巧に作られた人形の目。私の学校にも何人かこんなメイクをしている子がいる。今の子どもたちは自分から遠ざかることばかり考える、そう苦々しく言い放ったのは教頭で、そうではない、と反論したのは新米の数学教師だった。彼女たちは、自分から遠ざかるどころか、必死に近づこうとしているのだと思います、つまり完璧なまでの「私」を手に入れたいのではないか、と。私は数学教師の意見に賛成だ。もっとも、教頭が嫌いだから、という個人的な感情もあるが。
 接着剤なんてない。何に使うんだ? と亀が聞いた。
 くっつけようと思って……。女子高生は、なぜか亀ではなく、私の方を見ながら話す。お祭りとか、デモでもないのに、こんなにたくさんの人が集まって歩いてるなんてすごい奇跡。だから、いっそ、このままくっつけちゃおうと思って。
 人と人を?
 そう。
 いかにも馬鹿にしたように、下品に口をゆがめる亀。彼の表情に嫌悪感を覚えながら、私は女子高生に聞いた。きみは、不安じゃないのか?
 不安って?
 まるで答えのない問題に向かっているかのようなこの状況に、不安を覚えないのか?
 答えはもう出てるじゃん。
 女子高生は人差し指を立てて、しれっと言う。




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