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十月(天体、からっぽの柩、名無しの権兵衛)


Miles Davis - So What



しろくまぶしい窓の外からの日ざしに目をほそめる。多少のどが渇いているが、からだは汗をかいていない。電線のうえのカラスが、ふいにおもいがけないほどするどい声をはなつ。だてメガネは、まるで前世紀の遺物のように机のかたすみにころがっている。
みずいろのカーテンがみずいろの風にくすぐられ、いまにもみずいろの便箋になろうとしている、そんなみずいろの週末はどこまでもみずいろだった。
天体は、――ぼくはすばやくチラシの裏にそのつづきを書きとめる。

(天体は、その直観に
水鳥の弦を圧迫する

三日続きの雨のあと
たえず何かを探すふりをしながら

初冬を告げるように
釦をついばんだ

釦は熟れる
ことのない果実……)

   *

公園。朽ちかけたベンチをひとつ見つけ、座面をはらって座った。もう川のせせらぎと虫の声しかきこえない。いまにも風に飛んでいきそうな洗濯物をまぶしく見つめながら、これからのこと、について考えをめぐらす。
風のなかの、ありもしないはばたきさえもうまくききとれない日々を、ぼくはどうにかして手放したかったのだと、いまだからこそ、そうおもう。

(iPhoneの着信音、いつのまにかできたゆびさきの出血、名無しの権兵衛……)

半そで半ズボン、
季節はずれの子どもたちが
ぼくのかたわらをわっと駆けぬける。

   *

ときおり、亡きひとの視線を感じてふりかえるが、逆光でよく見えない(……サスペンスドラマとかで、犯人の顔が逆光で見えないのは、あれも反則だろう)。

月も太陽も、からっぽの柩。これじゃあ空を見あげるだけ損じゃないか。

   *

「人の命は吐いた息を吸う間もないうちに死ぬかもしれない(尽きる、果てるかもしれない)はかないもの」(『歎異抄』角川ソフィア文庫、一〇五ページ)




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