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群衆(1)(絵・ひがしもとしろう)

群衆(1)(絵・ひがしもとしろう)



 駅を出てから一時間近く歩いている。いや、歩いている、というよりは、歩かされている、というべきか。私は群衆の中で歩かされている。最初は十二、三人程度だったと思うが、あてもなく街をさまよっているうちに、右からも、左からも、ぞろぞろと人が集まってきて、今や相当な規模だ。
 集団から群衆へ、
 いったい何が我々を肥やすのか。
 そもそも、
 肥えているのは我々なのか。
 我々でなければ、
 なんだ?
 ……ぶつぶつ呟いていると、すぐ近くの男が話しかけてきた。
 ――たぶん、俺たちは、「群衆」という巨大な生き物に食べられちゃったんじゃないかな。
 紺のズック製のリュックを背負った背の高い男は、上から覗き込むように首を前に突き出していて、その仕種といい、やけにのっぺりとした面長の顔といい、亀みたいだった。
 ――これからまだまだ成長するよ、「群衆」は。今はゆっくりと反芻している最中だからね。
 成長したらどうなるんだろう? と私は聞いた。
 そんなことはわからない。そして、そのときが来てもわからない。そのときにはもう、俺たちは「群衆」の胃袋の中だからね。


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