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九月


Blame it on My Youth / Alice in Wonderland - 栗林すみれ(P)



もし犬が宇宙にいけば、当然犬についている蚤も宇宙にいくことになる。ロマンはむしろ蚤のほうにある。ひえびえとした宇宙に、蚤よ、犬よりさきに飛びこめ。だれも気づかない足跡をつけるんだ。

   *

宇宙について想像をめぐらすと決まってドツボにはまる。息苦しくなり、胸がしめつけられる。
子どものころ、友人とふたりで神さまや宇宙について意見を交換していると、友人が「あ、やばい」といって白目をむいて倒れてしまったことがあった。ぼくもまた、宇宙についてあれこれ考えているとふいに意識が遠ざかり、机の角に頭をぶつけたことがある。
宇宙というのは、ただ「ある」だけで、ぼくたちを途方もなくさせる魔物だった。

   *

ぼくたちは、どこにいて、どのようにあるのか。日々、湖面にさざなみさえも生まない歩行をくりかえしながら、もっと、もっと、手に負えないことばとめぐりあいたいと願っている。長く短い刻(とき)を生きられていくのを、積みたてるのではなく、積みくずす、あるいは積みへらすことで、どうあらがえるのか。そのためにもことばは必要不可欠だ。

   *

そういえば、毎朝、まばゆい光を発しながらお茶漬けをすする祖父は、まちがいなく彗星だった。ぼくは、学校にいくまえにはかならず、祖父にむかって「きょうもいちにち、よい日でありますように。だれも死にませんように」と祈っていたのだ。
そう、まちがいなく、祖父は彗星だった。ぼくが小学校三年のとき、祖父が心筋梗塞で亡くなるまで、だれも死ななかったし、平和だった(祖父はきっと、勘定にはいらなかったのだ。彗星だったから)。

   *

よけいなものをへらしていっても
よけいなものばかりふえつづけるのは
たえずよけいなことをしてしまっているからだが
きょうもあすもひとに会う予定があるというのに
いっこうに会いたいひとには会えない
会えるひとがたくさんあるということは
たったひとりのひとにたいして
見て見ぬふりを決めこむことにちがいない
まあそれでいいのだと
じぶんにいいきかせればいいきかすほど
この世界は味気なく
いろどりをなくす
どうでもいい
ことをまえだおしして
どうでもよくない
ことをあとまわしにするたちのわるさと
ただたんに日々をやりすごす
神経のずぶとさ
心象の岸にながれつくがらくたは
どれもみな判読不明の文字ばかり有していて
いっこうにあつかいかたがわからない
あるいはいっそ
お経のように読みあげてしまえばいいのか
それで詩でも書けばいいのか
だからといって……

だからといって
なんだ?


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