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眼球をうしなう(絵・ひがしもとしろう)

眼球をうしなう(1)(絵・ひがしもとしろう)


(一)朝、洗面所の鏡を見ると目ががらんどうだった。まえのめりになってなんども顔を確認したがやはり目がない。両目ともくっきりとくり抜かれている。

(二)しかし、なんともふしぎなのは、眼球がなくても「見る」ことはできる。

(三)見えるには見えるものの、だからといってほうっておくわけにはいかない。ただちに眼球をとりもどさなければならない。

(四)もしかしたら眼球というのは見る行為を妨げるものだったのかもしれない。わたしたちはつい眼球があることに安心しきってしまっていて、ほんとうに見えるものを見ていなかったのかもしれない。

(五)外を歩けば眼窩に風がはいってきて気持ちいい。まるで目薬をさしたあとのようだ。最初のうちは多少くすぐったかったり不愉快だったりしたが、そのうちそのくすぐったさや不愉快な感覚さえも気持ちよくなった。

(六)それにしても、なにが愉快かといえば、ひとはわたしの目を直視できないが、わたしはひとの目を直視できる、というところだ。だれもがわたしの目を見てわたしの気持ちや考えを読みとることができない。多少、表情やしぐさで予測することはできるとはおもうが、目ほどたしかな情報はない。

(七)わたしはひとの顔をまじまじと観察するようになった。

(八)わたしはなぜあんなにもひとにたいして臆病だったのか。眼球をうしなうとは、まったく、すばらしい。なんてしがらみのない世界だろう。


眼球をうしなう(2)(絵・ひがしもとしろう)


眼球をうしなう(3)(絵・ひがしもとしろう)


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