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旅、路上、翻訳家の朝


Zeena Parkins - Firebrat





 旅


最初の旅が始まると、最後の
旅が終わる。いつの時代も非
対称の旅の批評は幼い。
回帰線の向こう側で、蜘蛛の
巣にかかった旅人のポケット
から天国のコインがこぼれ出
す。そのコインの上を紡錘形
の野良犬が静かに通り過ぎ、
鳥が旧世界の方法で星と星を
結び合わせる。
忘却の雨が降るころ、私が欲
しているものはあなたの日記
ではないと蜘蛛が言う。僕は
なんでも信じるわけにはいか
ないのだと旅人は答える。そ
れから彼らの額に彫られた星
宿が輝いて、千年分の旅の金
字塔を打ちたてた。
(旅人が旅人の質量をこえる
とき、蜘蛛も蜘蛛の質量をこ
えるのだろうか?)
野良犬はコインの上を行った
り来たり。鳥は星の光に青ざ
めている。月の鍵穴のかたち
を知るためには、一度、旅の
記憶を捨てねばならないとい
うことを、誰も知らない。
いつの間にか旅人ののどはす
っかり渇いていて、蜘蛛の糸
は梵字のようにほぐれてしま
っている。
それでも正確に旅はめぐって
くる。のわのわとあえぎなが
ら。





 路上


路上派
の僕

反路上派
の僕

路上派の僕は空き缶を愛し
反路上派の僕は空き缶を嫌う
どちらも
ある反歌によって生まれた重力
によって瓦解しはじめる
わけではない

僕たちは
目に見えるほとんどすべての事象
を儀式化させなければならない
強迫観念にとらわれたボウフラのまま
神経を研ぎ澄ませながら

空き缶が西へ傾くか
東へ傾くか

人々の肉体が
白粥の世界でおぼれるとき
どの夢を見るのか

空き缶はころがりつづける
軽やかな音をたてて





 翻訳家の朝


言葉は過去だ
私は過去を訳す
今日は
ネクタイ――
ネクタイ語に訳す
ことにする
私は過去をネクタイ語に訳す
ことにしたところから
翻訳を始めることにする
コップが水を
水のかたちを
時計が時間を
時間の流れを
逐語的に訳すように
私は顔のコケを落とすのも忘れて
過去を訳す
ネクタイ語に訳す
いつか夢で見た魚の唇も
鳥が置いていった窓辺の翼も
すべてネクタイの上なら解釈可能である
という確信に導かれながら
訳す
訳すことで
訳しがたい私の存在をも


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