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ひとつの幻想その他二篇



 ひとつの幻想


かすかにひめいをあげつつも
カニが泡をふいたんだ
ぶくぶく ぶくぶく ふいたんだ
そのうちすっかりおおわれて
みえなくなってしまったんだ
(そうかそうだろうそうにちがいない)

みえなくなったカニは
ぶくぶく ぶくぶく ふいたんだ
そのうちすっかりおおわれて
わすれられてしまったんだ
(そうかそうだろうそうにちがいない)

わすれられたカニは
ぶくぶく ぶくぶく ふいたんだ
そのうちすっかりおおわれて
かすかにひめいをあげたんだ
(そうかそうだろうそうにちがいない)





 静かさ


静かなものが好きだ。
静かなものに触れたいと思っている。
静かなものの、その静かさをはかるのに「埃」は打ってつけである。
何年も放ったらかしにしていた祖父の無言の部屋、
その部屋に入り、窓を開けた瞬間、
埃が舞い上がった。
そのとき僕はたしかに祖父の部屋の静かさをはかることができた。
「この部屋はこんなにも長い間、
重苦しい沈黙にたえていたのか……」と思ったのだ。
静かなものが好きで、
静かなものに触れたいと思っていたが、
いざ触れてみると、
ひどく、悲しかった。





 線路


目の錯覚ではない
今でもその向こうに
ぼんやりと扉が見える
存在をかけたものの通過を待っている
整然と並んだまくら木は
終わりのない読点である
それは誰かの背骨にも似ている
魚が雲を食べようとしている
象のいびきが聞こえる
金色の穂波がゆれる
さあ
しりとりをしよう
このままどこまでも行けそうで
世界は単純かもしれない
という私は軽やかだ


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