FC2ブログ

記事一覧

静けさの復習(99)

静けさの復習(99)
(写真・時本景亮)


 ぼくたちは、おたがいにびしょ濡れのまま、おたがいにたいして口もきかず、ただえんえんとまちを歩いた。商店街のどこにも人影はなく、まち全体が静寂に包まれていた。あきらかにこのまちは入り日と相性がわるい、わるかった。
 はずだった。
――これはいったいどういうことなのだろう。
 とぼくはいった。
――これはいったいどういうことかしら。
 とこいびとはいった。
 気がつけば数えきれないほどのひとたちがぼくたちのあとをついてきている。携帯電話のカメラでぼくたちをカシャカシャ撮っているひともいる。ぼくたちに空き缶を投げつけるひともいれば励ましのことばをかけてくれるひともいる。
――まずは出会いから聞かせてください。
 とだれかがいった。
――……ぼくたちはそもそもどうやって出会ったのだろう?
 とぼくはひとりごちた。
――……わたしたちはそもそもどうして出会ってしまったのでしょう?
 とこいびともひとりごちる。
――ぼくたちにとって、日常であることは不自然だね。
 ぼくがそういうと、こいびとはたっぷりとほほえんで、
――歩きましょう。祈りになるまで。
 という。それからそっと、ぼくの手を握りしめてくれた。
 そうだ、歩くことが、歩きつづけることが、やがて祈りになればいい。ひたすらこのまちを徘徊しつづけることで、ぼくたちは祈りをいのることも可能なのかもしれない。
――歩こう、きみが白髪になるまで。
 とぼくはいった。
――ええ、歩きましょう、あなたが猫背になるまで。
 とこいびともいった。


スポンサーサイト

コメント

コメントの投稿

非公開コメント