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静けさの復習(88)

静けさの復習(88)(写真・時本景亮さん)
(写真・時本景亮)


 商店街のアーケードにはなぜか鳥かごがたくさんつり下げられているが、どの鳥かごにも鳥はいない。みんないっせいに脱出してしまったのか。あるいはもともと鳥なんていなかったのか。ぼくは前者だといい、こいびとは後者だという。ぼくたちはしばらく躍起になって持論を展開した。
――あなたはなんでもわたしの反対ね。
――きみはなんでもぼくの反対だ。
 ぼくたちの歩行は、ほんとうに痛ましい肖像のようだとぼくはいう。そうね、わたしたちの歩行はほんとうに痛ましい肖像のようねとこいびともいう。それから気が遠くなるほど長い沈黙がつづく。あるいはぼくは最初からそんなことをいうべきではなかったのだろうか?
 だから、日付のない日記のように歩行する。数時間後によりよく眠りにつくために。
 夕方。「なぜ」をくわえて飛び立つ鳥の群れ。ジャングルジムのうえで鈴なりになった子どもたち。
――まるで実っているみたいね。
 とこいびとがいう。
――まるできのうのぶどうみたいね。
 と。
 ぼくはすぐに不快に感じて視線をそらす。
 それからふと胸のまえで十字架を切ってみる。十字架を切ったわりにはぼくは日本の神様が好きだ。


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