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書物

草原は青臭い呼吸を繰り返し
ている。その中央に、まるで
ひややかな批評のように椅子
が置かれている。椅子の上に
は数えきれぬほどの書物があ
り、ぐにゃぐにゃと全体を揺
らしながら、なおも周縁の植
物よりもたくましく、増殖し
ている。時折、紙の隙間から
言葉の小人達が落ちてくる。
物語の語り手や舞台、骨子な
どを引き連れて。やがて三台
のバスが子午線を渡ってやっ
て来る。言葉の小人達が乗車
し、バスのドアが閉まると、
草原はゆるやかに瓦解しはじ
める。灰色の世界に戻ってい
く。つぎの記憶は、椅子か本
か、どちらを先に選ぶだろう
と、私は想像する。あるいは
他のものかもしれない。郵便
受けに何かが落とされる。私
は郵便物を開封する。すると
私はここから消えてしまう。


(日本海詩壇入選作品)


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