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静けさの復習(58)

 だれにも知られずに日常を送ることがどれほどむなしいことか。ぼくたちは日に日に身に染みてきている。でも、だからといって、だれかに知られたいわけでも、だれかと話したいわけでもない。というか、はたしてぼくたちには知りあいはいるのだろうか。ぼくたちの存在を知っているひとがいったいどれほどいるのだろう。ぼくの両親はだれだろう。こいびとの両親はだれだろう。おじとか、おばとか。あるいは、きょうだいとか。ぼくたちのだれか、ぼくたちのためのだれかは、どこにいるのだろう?
――もしかしたら、
 とぼくはいった。
――ぼくたちだってまだ、だれでもないのかもしれない。
――……え? なにかいった?
 こいびとがぼくの顔を見る。あまりにも直線的な視線。
――おたがいのためにも「だれか」を探すべきだと思うんだ、ぼくたちにとっての「だれか」を。ひとりでもいい、その「だれか」が見つかれば、ぼくがだれであるかも、きみがだれであるかもわかるはずだ。それからまた、はじめればいい。
 こいびとは一瞬、ぼくをにらみつけるように双眸を細めた。にらみつけるように、あるいは疑うように。
――なにをはじめるの?
――だから、関係を、だよ。ぼくたちが「だれであるか」がわかれば、ぼくたちはもっと愛しあえるかもしれない。
――わたしたちが「だれであるか」がわかったとたん、正気に戻るかもしれないわ。
――正気って?
――正気は正気よ。
 ぼくは反射的にこいびとをにらみつけた。こいびともぼくをきっとにらみかえす。


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