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静けさの復習(53)

 昼下がりの電車は空いていたが、途中下車した駅はにぎやかだった。赤い瓦屋根のちいさな無人駅がなぜこんなにもにぎやかなのか一瞬、わからなかった。あたりにはひとっこひとりいないのだ。
――きっと幽霊のしわざね。
 とこいびとはいった。
――みんな、幽霊なのね。
 ぼくたちが改札を抜けるとすぐに話し声は消えた。
 日差しは清潔なほど清潔で、風は健康すぎてせつない。あちこちに古びた――まるで幽霊でも居そうな――納屋がある。足もとには喪中葉書が一枚落ちていて、〈喪中につき年頭のご挨拶はご遠慮申し上げます/来春・新年のご挨拶を申し上げるべきところ/義母の喪中につき失礼させて頂きます/年末に向かい寒さも厳しくなって参ります/くれぐれもご自愛くださいますように/明年もなにとぞよろしくお願い申し上げます〉と書かれていた。達筆だった。
 ずっと向こうの田んぼに白鷺が二羽たたずんでいる。見事なまでに垂直にたたずんでいる。これはもう二度と訪れないであろう奇跡だとぼくは直観した。
 すると突然、こいびとが歩を速めた。
 ぼくは必死でこいびとの背中を追いかけた。
 まるでなにかに腹を立てているみたいだった。しかし、だとしたら、いったいなににたいして腹を立てているのだろう?


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