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静けさの復習(50)

 こいびとはふいに立ち止まり、ワンピースのポケットからキャラメルをだして口に放り込んだ。
 なにもいわず、平然としてキャラメルをかむこいびとの横顔をまじまじと見つめながら、ぼくははっと息をのんだ。いったいなにがそこまでショックなのか、わからない。わからないけれども、とにかくショックだった。
――まさかきみがキャラメルをもっていたなんて知らなかった。
 思わずそう口走ってしまった。
 こいびとが「え?」といってふりむいた。いつもよりも数倍、笑顔がすてきだった。頬がほんのりほてっていた。
――まさかきみがキャラメルをもっていたなんて知らなかった。
 二度目は意図的に、ひとつひとつことばをかみしめながら、いった。
――ほしいならほしいっていいなよ。
 こいびとは無邪気に笑い声をたててキャラメルの箱をさしだす。ぼくはキャラメルの包装をていねいに解きながら、
――ほしいとかほしくないとか、そういうことじゃなくて……。
 などと、いいわけを口にする。
 しかし、こいびとはもう、うんともすんともいわず、笑顔を保ったままぼくの目を見つめるだけだった。
 どうやらぼくがキャラメルに――こいびとがキャラメルをもっていたことに――激しく動揺していることはわかってもらえそうになかった。


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