FC2ブログ

記事一覧

静けさの復習(38)

静けさの復習(38)(写真・時本景亮さん)
(写真・時本景亮)



――化粧をしてみたい。
 ぼくは、椅子の背もたれといっしょくたにこいびとを抱きしめながら、鏡面に映ったこいびとの顔を見つめながら、そう囁いた。
――わかった、幽霊にしてあげる。
 こいびとは、椅子の背もたれといっしょくたにぼくに抱きしめられながら、鏡面に映ったぼくの顔を見つめながら、そう囁いた。
 こいびとはすぐさまぼくと入れかわり、鏡台のうえのポーチから口紅を取りだした。ぼくはぼくで、くつくつ笑いながらも、もともとうすいくちびるをさらにうすくひきのばす。
――きみも幽霊になればいいよ。
――おたがい幽霊になりましょう。
 それからまもなく、ぼくたちの肌はしろく、くちびるだけが赤い、赤かった。いまここに死装束があればよかった。頭につける、あのしろい三角の布、なんていうんだっけ?
 ぼくたちは、だから服を脱いで幽霊になった。


スポンサーサイト



コメント

コメントの投稿

非公開コメント