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静けさの復習(37)

 郵便受けに封書かなにかが落ちる音にはっとして目を覚ました。日差しがあかるい。悲しいまでにあかるい。
 郵便物を見にいったがなにもなかった。近くの家の、車のボンネットのうえで二匹の猫が伸びたりちぢんだりしていた。
――なにを書いているの?
 とこいびとが訊く。
――日記だよ。
 とぼくはこたえる。
――……なんて書いてあるのかぜんぜん読めない。まるでわらいたくないみみずみたいね。
――ぜんぜんわらいたくないみみずなんかじゃないよ。ドイツ語だからね。
――ドイツ語、できるの?
――うんいまドイツ製の万年筆で書いているから。
 そういってぼくは万年筆をこいびとに見せた。
――ドイツ製の万年筆だとドイツ語を扱えるっていうのは、たとえば……。
 こいびとはぼくから視線をそらしながら慎重にことばを継いだ。
――たとえば音楽が苦手なわたしでもピアノのまえだと楽譜さえもすらすら読めちゃうようなもの?
――さあ、そんなことは実際ピアノを弾いてみないとわからないんじゃないかな。
――……やっぱりあなたはなにもわかっていない、わかろうともしない。


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