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噂、サンドイッチ、昼顔

 見る、まなざす、という行為は素朴なリアリズムだ、素朴だからこそ怖い。愉悦や優越感。妬みやひがみ。懐疑心や猜疑心。きょうも片田舎のそこここに日本人の視線の癖がある。見ていないようで見ている。井戸端に集う噂愛好家たちは、ひたすらご近所の関係性のあんばいのみに終始していて、宗教性も芸術性もまったく欠いているようだと、たとえば畑のかたすみでサンドイッチを食みながらひとりごちるぼくもまた、宗教性も芸術性もまったく欠いていて、見る、まなざす、という素朴なリアリズムに呑まれている人間のひとり、なのだろう。
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 異なる視点をもち、ものごとを複眼的に見ようとしても、それはそれで、じぶんじしんがサンドイッチの具(=愚)――愉悦や優越感、妬みやひがみ、懐疑心や猜疑心――になってしまったかのようで、どうも落ちつかない、というときがある。いつまでたっても「サンドイッチそのものに自立性があるのだ」と割りきることもできない。いっそチャーハンのようになにもかもがごちゃまぜになってしまったほうがいいのだろうか。
 というようなことを考えているところに知り合いから電話がかかってきたので、試みに、先の……というようなことをはなしてみると、「いいじゃん。サンドイッチだろうがなんだろうが、どうせ食べちゃうんだ。」というようなことをいわれた。
 どうせ食べちゃうんだ。
 うん、そりゃそうだ、どうせ食べちゃうんだ。あるいは、食べられちゃうんだ。なにものにか知らないけれど。
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 夜、録画していた映画を観る(LOVE PSYCHEDELICO、めちゃいい。「愛は泣いていたんだろう秘密の場所で」……)。観ながらなんとなくメモをとっているうちに、詩らしきものができる。あくまで詩らしきものが。たとえことばがばらばらでも、そのときその場所に磁場(=文体)が発生すればふいに、なかば強引に、詩らしきものが生まれる可能性がある。あくまで詩らしきものが。タイトルは「昼顔」。
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きみのくちびるをもとめて、夜の岸辺を抱く。

口実はいくらでもつくれる。ちいさな魚たちの遊泳のために。とか。蛍の、理想の韻をきくために。とか。水のスタイルとかさなりたくて。とか。ほんと、ばかばかしいね。

結局、さ、あたしはきみの純度をまなんだとはいえないんだ。きみは、きみのほうからもっとたくさん「約束」をさしださなければならなかったんだよ。キスも。抱擁も。愛撫も。すべて約束で、約束でしかないのだから、あたしに約束を破ってください、なんて、死んでもいってやるものか。

むかしむかし、あたしたちはなんども――うちゅう――の――ばくはつ――の――しゅんかん――に――キスをかわした。うまれて。しょうめつして。うまれて。しょうめつして。でも、キスのかんしょくはきえなかった。

(心臓が不死を感じるのは、きっとそのせいだ。泣かせるね。)

ひとでなし、とつぶやく。するときみはひとでなしになる。あたしもひとでなしになる。それでいいじゃん。なにもこわくないし、なにも終わらない。だから岸なんか抱いていないで、きみのくちびるを探しに、蛍になってしまおうよ、なんて……これが生きている証拠なんだろうな。

百年後、千年後も、あたしたちはキスをするだろうか。あたしが料理なんかつくっていると、急にきみがやってきてさ、抱きしめてくれてさ。その夜は、こんなふうに岸とか水とか蛍とか、おもわなくていいんだ、きみが好きだ、と、素直にいってあげるよ。

ありきたりだけど、わるい?
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 ……しかし、これはあくまで詩らしきものでしかないので、映画を観終わったあと、机にむかって詩を書きはじめる。出だしはこんな感じだ。

 たとえば幽霊船のようなものに
 ふたりはつねにまわりこまれていて
 吐息の影もない


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