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静けさの復習(33)

静けさの復習(33)(写真・時本景亮さん)
(写真・時本景亮)



 窓の外をぼんやり眺めていると突然、雨が降りはじめた。ぼくは、なるべく聞こえないほうの耳で雨音を聞こうとする。なぜそんなことを思いついたのか、じぶんでもよくわからない。
 天国、とぼくはつぶやいた。
 雨の日には雨の生きものがわっとわく。ナメクジなんか、知らないうちにそこらじゅうにいる。どこからどうやってきたのかわからない。ぼくたちもまた、雨の日には雨傘を携えてナメクジのようにまちのそこここに姿をあらわす。雨の日には雨のよそおいで、雨の日らしくぼくたちはこの世界に、このまちになじむ。なじんだふりをする。
 ぼくは雨が好きだ。傘が好きだ。濡れるのも嫌いじゃない。もしかしたらご先祖様は河童だったかもしれない。
――もしかしたらご先祖様は河童だったかもしれない。
 実際、つぶやいてみた。
 こいびとは、聞こえなかったのか無反応だった。
――……なにを考えているの?
 するとこいびとはくちびるをアヒルのようにとがらせて、なぜかはずかしそうに、もどかしそうに、
――傘のしたで、温まること。たとえば缶コーヒー。一本の缶コーヒーを、あなたと分けあうこと。
 といった。
 ぼくたちはただちに自販機を探して歩いた。探して歩いているとき、あ! とぼくは思った。


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