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(そういえば、ずいぶんとまえのはなしになるが)


Romance de Amor



 そういえば、ずいぶんとまえのはなしになるが親戚のおばさん――もう何年かまえにがんで亡くなってしまった――とお茶しているときに彼女がだしぬけに「ぜったいにわたしにとって〝どうしてもというひと〟は相手にとっても〝どうしても〟っておもってもらえるとおもうの、通じあえるはずだわ」というようなことをおっしゃったので、なかなかそういうことにうといぼくは「それはいったいどういう意味ですか?」とテーブルに身をのりだすようにしてききかえすと、彼女はコーヒーをひとくちのんでから「わたしにはいまでも好きだとおもえるひとがいるんだけれど、そのひとはわたしのなかで〝どうしても〟っていうひとなの。だから相手も、もしかしたらわたしのことを〝どうしても〟っておもってくれているんじゃないかな、ふといま、そうおもったの」――。それから彼女は、フジコ・ヘミングだかだれだかがテレビかなにかで「じぶんのことを〝ほんもの〟だといってほめてくれるひとはどこかにいるはず」云々いっていたのをひきあいにだしながら、「おたがいがおたがい、あなたこそわたしにとってのほんものだと、そんなふうにおもえる、おもいあうことのできるぜったい性が、ぜったいにあるとおもう」というので、ぼくはためしに「もしじぶんが〝どうしても〟とおもっている相手が、じぶんのことを〝どうしても〟っておもってくれていなかった場合、そのぜったい性はどうなるんですか」と水をさすようなことを口にすると、彼女はにっこりとわらって、「そんなのかんたんよ、ぜったいでなかっただけのことだわ」とこたえた。昼下がりのファミレスはお客さんがまばらで、大学生くらいのウエイターがしきりに前髪を気にしていた。ドリンクバーの機械のまえでコカ・コーラがでなくてこまっているひとがいた。……そういった光景をなんとなくながめながらぼくは「もしおたがいにとってぜったいでなかったとしても、じぶんは相手のことを〝どうしても〟っておもっているのなら、せっかくそんなふうにおもえるのなら、もし相手がじぶんのことをおもってくれていなくても、こっちは胸のうちでひそかにそのひとのことを、そのひとの人生を応援することは可能ですよね。ぜったい、ではなくても、おもえる遠さ近さ、っていうか」。すると彼女はすこし視線を明後日の方向になげだして考えるそぶりをしてみせてから、「たしかに相手のことをずっとおもいつづけるのは、それはそれですてきなことだとおもうけれど、それはただたんに〝存在のおもいで〟を抱きしめているだけで、ほんとうに相手のことをおもっているわけじゃないとおもう。こっちがおもっているのなら、相手もおもってくれているはず。それこそ、ぜったいの領域、〝どうしても〟の領域で!」。「ふうん。なんていうか、対(つい)ですね」。「そう、対なの」。「たとえばもしじぶんにとって〝どうしてもというひと〟がどこかにいるとして、運とかタイミングとかがわるくて出会えなかったとしたら、どうすればいいんでしょう?」。「うーん、そこがむずかしいところよね。いるにはいるはずなんだけれど」。「とにかく、いるにはいるはず、なんですね」。「そう、いるにはいるはずよ」。ぼくが「これははたして恋愛のはなしなんですか」と、そうきくと、彼女は口をおさえてあははとわらってから、「人間同士のはなしよ」といった――彼女とそういったはなしをしたことを最近、ふいにおもいだしたのだ。


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