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Love Letter

すぐそばにだれかの気配を感じてふりかえると、あなただった。わたしたちはしばらく――ものしずかなふたごのように――見つめあい、ほほえみあった。子どものころ、しゃがんで視線をあげると水平線は丘だった。ずっと沖のむこう、空と海の継ぎ目から波はおだやかに歌をはじめる。そして波は、ありもしない日付とともに、ありもしない函を運んでくる(ときには魚たちのことばとたわむれながら)。もうすでになんの履歴ももたない汀でわたしたちはその函をうけとる。函のなかにはなにもない。投函した手紙が戻ってくるほどのなつかしさ、とでもいえばいいのか。いつまでもふれることのないまなざしやくちびるやゆびさき。わたしからあなたへ、あなたからわたしへ……遠く近くあいさつを交わしあうように。空が晴れわたり、太陽がまぶしく輝いている。風がありふれた思い出をさらっていく。濡れた合鍵のように転がっている一羽の小鳥、そのうえに雲の影が重なるのはほんの一瞬だった。


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