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静けさの復習(25)

静けさの復習(25)(写真・時本景亮さん)
(写真・時本景亮)



 ぼくたちは、ぼくたちが轢かれた場所を見つめながら、なにかを思いだそうとした。なんでもいい、なにかを思いだそうとした。とりあえず、とにかく、ひたすら、なにかを思いだそうとした。足もとでは蟻たちが、だれかさんの死骸らしきものを「えっさほいさ」とかけ声をあわせながら巣に持ち帰っている途中だった。
 しかし、ぼくたちはいったいいつどこで出会ったのか。いったいいつどこでひかれあったのか。やっぱりなにひとつとして思いだせない、思いだせなかった。
――ひとって悲しいね。
 とこいびとはいった。
――どうしてわたしたちはすぐになんでも、かたちにおさめようとするのかしら?
――かたち?
 ぼくは訊きかえす。
――たとえば鳥かごのなかの鳥は、外にでたくてたまらない。でも、ひとは鳥を鳥かごのなかに入れたがる。勝手にじぶんのものにしてしまう。鳥にとって、鳥かごのなかは、はばたきを奪われたのも同然の仕打ちじゃない?
――でも、はばたきを奪われた鳥なんて、ひとはほしいと思わない。鳥かごのなかでも鳥は飛べるし鳴ける。だから、そう思っているから、ひとは鳥を飼いたがるのかもしれない。
――そうね、それにそこでは鳥は死ねないし。
――死ねない?
――水を飲むことも、餌をついばむことも、たぶんきっと健康な鳥なら拒まないでしょう。鳥かごのなかにいるからって、そこから一生抜けだせないからって、絶望しないでしょう。それは、そのことは、きっとわたしたちを傲慢にさせるのよ。
――もし鳥が鳥かごに入れられれば絶望するのだとしたら、ぼくたちは鳥を鳥かごに入れるなんてしないだろうね。
――でも鳥はほんとうは絶望するのよ。
――比喩じゃなくて?
――比喩じゃなくてほんとうに鳥は絶望する。
 そしてさらにこいびとは、じぶんにいいきかすようにこうつけくわえる。
――わたしたち以上に。
 と。



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