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静けさの復習(23)

 川と、川の表面を流れる風に寄り添うように土手を歩く。ぼくたちはまぎれもない歩行者だ。歩行者として歩行を複写しつづけている。一歩一歩、そのまえの歩行を写しとっていく。そのまえの歩行とあとの歩行は決して交わることはないが、だからといって乖離しているわけではない。不連続の連続、それが歩行の歩行たるゆえんだ。
――けれどもどこか草書のように、おぼつかない。
 ぼくはふたたびひとりごちる。
 電線のうえのカラスはまるで鳴きかたを忘れてしまったようにおとなしい。子どものころぼくはカラスだけが現在過去未来どこにも行けるものだと思っていた。なぜそんなことを思っていたのかはわからない。しかし、ぼくは本気でカラスだけが時空を好き勝手に行き来できるのだと信じていた。いまだってまだちょっとだけ、信じている。
 そのことをこいびとに打ち明けると、こいびとは目を細めたうえ、口をゆがめて、
――カラスはうるさい。でも、静か。とても静か。
 といった。
 ぼくは即座にうなずいて、うん、そうだね、とこたえた。
 いつのまにかまちはずれの道にでてしまっていた。



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