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静けさの復習(14)

――当店のポイントカードはおもちですか?
 若い店員だった。いかにも事務的な口調だった。
――いいえ。
 ぼくは財布のなかのお金をたしかめながらこたえた。
――お弁当は温めますか?
――はい。
 お金を払っているとき、財布のなかからありとあらゆる種類のカードがでてきた。本屋のポイントカードや電器屋のポイントカードやレンタルビデオ店の会員カード、図書館の貸出カードやキャッシュカードなど。耳鼻咽喉科の診察券まであるが運転免許証はない。これでぼくの名前を調べようと思えば調べられるはずだ、しかしなぜか「まだいいや」と思った。
――本日はこちらのから揚げが十円引きになっておりますが、いかがですか。
 電子レンジから鶏のから揚げ弁当を取りだしてから、店員はレジ脇のショーケースのなかの鶏のから揚げを指し示しながらまたもや事務的な口調でいった。
――鶏のから揚げは、このお弁当にあるので、いいです。
 ぼくは、ためしににっこりとほほえみながらばかていねいにこたえてみた。
――お買い上げありがとうございます。
 店員も品物をぼくに手渡しながらにっこりとほほえんだ。
 コンビニをでると、道路を隔てて真向かいに鶏のから揚げ専門のお店があった。「日本一のから揚げ/本日、オール百円引き」という幟が立っていて、ずらっと行列ができている。だれもが携帯電話をつつきながら並んでいる。そのひとだかりのなかに、ひとりだけ、ぼくを直視している男性がいた。ぼくもその男性を直視した。その男性はなぜか、ぼくがコンビニで鶏のから揚げ弁当を買ったことがわかっているようだった。すくなくともぼくにはそう思えた。ぼくは、たちまちコンビニで鶏のから揚げ弁当を買ってしまったことをひどく悔やんだ。
 数秒間、鶏のから揚げ専門のお店のまえの行列にくわわっている男性にたいしてうらみごとのひとつやふたつ、ぶちまけたい衝動に駆られた。
 しかし、ぼくはぐっと我慢した。




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