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静けさの復習(13)

――ツナマヨ。昆布。梅。きみはどれが好き?
 コンビニのおにぎり棚のまえでぼくは訊いた。こいびとは黒髪を左耳にひっかけながら小首をかしげた。しばしの沈黙のあと、わからない、といった。
――どれも食べられる気はするけれど、もしかしたらわたしはパンのほうが好きかもしれない。
――よし、じゃあ、パンを見てみよう。
 パンの陳列棚のまえにいく。そして、先ほどと同じように何パンが好きかとぼくは訊いた。こいびとは、またもや髪を耳にひっかけながら首をかしげる。しばしの沈黙のあと、わからない、という。
――ほんとうにわからないの。おなかはへっているのだけれど、それは確実だけれど、なにを食べたいのか、わたしはなにが好きなのか、さっぱりわからない。
――わからない、というか、思いだせないんだね。
――あなたは、じぶんの好みを思いだせる?
――うーん。たぶんきっと、きみほど深刻にとらえていないだけかもしれないんだけど、とにかくいまはなんでもいい気がするし、ぼくはそもそもそこまで食べものにこだわる人間ではない気がする。
――わたしは、ちがうな。あなたとは逆に、好き嫌いがあるんだと思う。好きなものはものすごく好きだけれど、嫌いなものはものすごく嫌いだと思うの。
――とりあえずなにか食べないと。食べてみて、もしそれが嫌いなものだったら捨てればいい。
――一度でも口のなかに入れてしまったらだめ。嫌いなものはぜったいに食べたらだめなの。
――……ぼくはこれにするよ。
 そういってぼくは鶏のから揚げ弁当(「新発売」というシールが貼られているがどこからどう見てもごくふつうの鶏のから揚げ弁当だ)をひとつ買いものかごに入れた。こいびとは二、三秒それをにらみつけてから、ついとそっぽを向き、反対の陳列棚から「どでかプリン」をとった。それから、いちごのショートケーキも。あなたもケーキ食べる? と訊かれたが、ぼくは笑って首を横にふった。
――なにかもっと栄養になるものを食べないと。
 とぼくはいった。
――食べもの選びは、栄養がどうかよりもまず、心を満たすことが先決じゃない?
 とこいびとはいった。




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