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静けさの復習(3)




 どういうわけか、道路のひび割れのなかで一羽の小鳥が助けを求めている。放っておくのがいいときもあるよとぼくはいったが、こいびとは即座にその場にしゃがみ込んで、小鳥の首をつまんだ。
――きっとこの子はここで夏草が生えるのを待っているんだわ。ほかの鳥たちといっしょに家路につくのを拒んだんだわ。なんていい子。
――きみのわるいところは、なんでも「子」呼ばわりするところだ。
――このまま首、しめていい?
 さいわいにも、太陽のまぶしさのせいでこいびとの顔は見えなかった。
 ぼくたちは歩きつづける。表向きはひとの波に――願望としては鳥の方向性に――したがいながら。まるで羊の群れのようだ、とぼくは思う。たまには逆走してみたい、とも。
 のどが渇いた。ぼくがそういうと、こいびとはふいに立ち止まり、道路の向こう側にある釣り道具屋を指差して、じゃあ、あそこで海を買いましょう、といった。存外真剣なまなざしだった。ぼくは、釣り道具屋には海はないよ、とはいわなかった。そのかわり、海水は、ますますのどが渇くね、と、やんわりと諭すようにいった。しかし、こいびとのまなざしの真剣さは変わらず、それどころかやけに鈍く、せつなく、固執する光を宿した。
――じゃあ、のどにはますますのどが渇くように仕向けましょう。
 とこいびとはいった。
 結局、釣り道具屋にはいかなかった。釣り道具屋のさらに向こうで親しげな、あまりにも親しげな身振り手振りをくりかえすものがいた。波だった。ぼくは、なにも釣り道具屋で海水を買わなくてもすぐそこに海があることに歓喜した。ぼくはこいびとの手を引っ張って海に向かって走った。こいびとはぼくの手に引っ張られながらもどこか釣り道具屋に未練がましかった。




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