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わたしと亀と清志郎(21)

わたしと亀と清志郎(21)
(絵・ひがしもとしろう)



 某月某日
「亀之助」と書いたラベルを清志郎のおでこに貼った。
――きょうからあなたはもう、清志郎じゃない。亀之助。あなたはいまから亀之助よ。わかった?
 それでもわたしはつらかった。わたしはいつまでもこいつのことをおぼえているのに、こいつは一日一日、刻一刻とわたしのことをわすれてゆく。なるほど、ふしあわせってこのことね。
   *
 横揺れのはげしい二槽式洗濯機。わたしはそのなかにかれにプレゼントした水玉のネクタイ――ああもうすっかりくたびれてしまってまるで訳しそこねたことばみたいだ――をポイッとほうりこんだ。それから台所の流しのまえで壁時計の秒針のめぐりかたとは逆――反時計まわり――に食パンをかじる。
――亀の気持ちなんて永遠にわからないものね。
 わたしは、なにもつけない食パンが、すき。
   *
 そういえば清志郎はかつて――亀になるまえは――大がつくほどの野菜嫌いだった。しかしいまはどうだろう、野菜どころか道ばたの野草をも口にいれたがる。タンポポ。オオイヌノフグリ。シロツメクサ。ホトケノザ。カラスノエンドウ。ヨモギ……。
――あなたはもうひとりじゃ生きれないのね、わたしがいなきゃだめね。
 わたしはいう。
――でも、あなた、わたしよりもうんと長生きするでしょう。なにもできないくせに、どこにもいけないくせに、ただただすこやかにとりのこされてしまうなんて、こっけいね。
 わたしはなおもいう。
――とってもいい気味。わらってあげる。




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