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わたしと亀と清志郎(20)

わたしと亀と清志郎(20)
(絵・ひがしもとしろう)



 某月某日
 清志郎は一日一日、亀に近づいていく。亀そのものになっていく。あるいは日々、亀になるために亀の練習をしているのかもしれない。
――いかないで! ひとりでいっちゃだめよ清志郎!
 なんど呼びかけても清志郎は聞く耳をもたない。
――いかないで! ひとりでいっちゃだめよ清志郎!
 わたしはいま、はじめて清志郎をしんから愛することができるような、できているような、そんな気がしている。

 某月某日
 清志郎が、いない。ベッドのしたにも、カーテンのうらがわにも旅行かばんのなかにも。台所にもお風呂場にも物置部屋にも。

 某月某日
 清志郎は、郵便受けのなかに、いた。
――どうしてこんなところにいるの?
 わたしはなかばあきれかえりつつも、清志郎のおでこにぴたっと、まあたらしい切手を貼ってやる。清志郎は必死に首をふってそれをとろうとするがとれない。
――地中海、見せてあげる。
 わたしは台所にもどり、紅茶を淹れる。テレビをつける。あと五分で旅の番組がはじまる。
   *
(たとえ、そう、わたしがいなくても、清志郎はあっけらかんと生きつづけるでしょう)
   *
(あるいはだれからもわすれられる運命がかえって気楽なのかしら?)




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