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わたしと亀と清志郎(17)

わたしと亀と清志郎(17)
(絵・ひがしもとしろう)



 某月某日
 木曜日の市場。
――きょうの「杖」は機嫌がわるくてかなわん。
 出荷場のまえで、顔なじみのおばあちゃんはそういって、「杖」を指さす。「杖」というのは、見張り番のことだ。ゆうに九十歳をこえているらしいが、眼光するどく、なにやらぶつぶつとつぶやきながら、始終わたしたち亀売りのようすをうかがっている。ときどき杖でコンテナをたたきながら、
――きっちゃねえ亀ばっかだ、どれもこれもきっちゃねえ、きっちゃねえ!
 と声をあららげる。かれの杖はたんなる脅しではない。実際にこっぴどくやられたものもいる。
――あんたのおばあさんが死んでから、「杖」のやつ、すっかりくるってしまったわ。
――えっ、わたしのおばあちゃんここに来てたの?
――なんだあ、あんた、なんも知らんのかいな?
 わたしが真顔でうなずくと、おばあちゃんは急によそよそしくなって、そのままどこかにいってしまった。




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