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わたしと亀と清志郎(13)

わたしと亀と清志郎(13)
(絵・ひがしもとしろう)



 某月某日
 清志郎には、母国語とか異国語とかそういうものはない。あるとすれば沈黙――舌がしびれるほどにがみのある沈黙だけ。
   *
 たとえば床にこぼれた万年筆のインクがゆっくりとながれはじめるように、清志郎の歩みもまた偶然的に、恣意的に、風に誘導される。そんなかれの歩みをじっと見つめたまま、これは寓話ですらないと、おもう。
   *
 清志郎は、なかなかおなかを見せたがらない。こちらがむりやりひっくりかえそうとすればじたばたと、それはもう必死で、死にものぐるいで抵抗する。そして――どういうカラクリなのかしらないけれど――やじろべえのようにすっと、もとの姿勢にもどってしまう。ふしぎなちからがはたらいているのだ。
 もちろん、もっと本気でかかれば清志郎のおなかを見るのはたやすいのかもしれない。でもそこまでして見たいともおもわないし、残酷にもなれない。
 もしかしたら清志郎のおなかにはわたしの名前が刻まれているのかもしれない、などと夢想してみる。ちょっとだけ、たのしい。




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