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わたしと亀と清志郎(8)

わたしと亀と清志郎(8)
(絵・ひがしもとしろう)



 某月某日
 以前の清志郎のにおいをおもいだそうとしても、もう、まったくおもいだせない。むりにでもおもいだそうとすると、鼻の奥がしびれ、ぐずぐずして、くしゃみがでそうででない、もどかしい感じになる。わたしにとっていまの清志郎は、ああもうほんとうに、どうしようもなく、どうしようもないほど亀だった。
   *
 わたしはだんだん亀の清志郎に慣れていくだろう。そしてこころからほっとするだろう。でも、わすれないようにしよう、とおもった。このいたみも、せつなさも、なにもかも。わたしはすぐにたいせつなことをわすれてしまう。それはきっとしかたないことなのかもしれない。いや、うん、だからこそ、だめだ、わすれたくない。
   *
 あ。清志郎が、まさにいま、愛情のようなまなざしでわたしを見ている。だけど、そのまなざしの奥のほうには、もうひとつのまなざし、もうひとつの目があり、それこそわたしの心臓をえぐる。一瞬、奈落の底をのぞいてしまったかのような、はげしいめまいに襲われた。




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