FC2ブログ

記事一覧

孤絶(写真・時本景亮さん)

孤絶(写真・時本景亮さん)



 夜、釣りに出かけるのならば、たとえば五次方程式を解くために費やされた時間こそふさわしい。水の階段が、そしてその手すりに取りつけられた手錠のひとつひとつが魚の鱗を輝かせるまで。

 竹や棒をモリに見立てて振りまわす幼いラマファたち。浜辺に横たわった仮想のマッコウクジラ。少年はその末裔からのがれたがっている。狂った精霊は彼の舌先に飢えを見つけるが何も言わない。「異文化の接触」のわきをすり抜けて川のほうへ歩く。あるいは饒舌の扉から寡黙の扉へ、釣竿はすでに罪を知ってしまったのか。

(少年の母親が膝にのせた月をなでている。振り向こうにも振り向けない、かたまった首にさいなまれながら。)

 橋の下で、水を透かして零度の墓を探る。墓、それは魚たちが有限の時間を編んでつくった長大なものがたりである。精霊から得る、特定の角度――が、何かのはずみで発砲しないかと、少年はおそるおそる感受性の釣糸を垂らす。〈このままゆるやかに溶け込んで輪郭を失ってしまいたい。〉

(魚は神話を隠している。無論、聞き手は不在だが、聞き手の不在という頭はない。)

 また、この川には日付がなく、鍵もいらない。煤煙や塵埃に汚された過去しか持たぬ少年の緊張がほぐれるとき、そのときこそ最初の愛が見えやしないか。鮮烈なまでに透きとおった一滴、その論考の底へ落ちることもあるだろう。しばらくして、贖罪の意識が〝さんずい〟を抱えた痛覚となり、脈打ちながらも錯覚の中心をとらえた。確実にとらえた。


(「詩と思想」読者投稿欄入選作品)


スポンサーサイト



コメント

コメントの投稿

非公開コメント