FC2ブログ

記事一覧

タイムマインド(潤一編)(78)

       二十三「火垂るの墓」と「魔女の宅急便」を観て、「おもひでぽろぽろ」の途中に、校内放送が入った。間もなくメインイベント、フォークダンスがはじまります、校庭に集まってください、と。 みんなが一斉に立ち上がって教室を出ていった。仕事に行ったのだろう、母の姿はもう見当たらない。 いよいよだな、と僕は心の中でつぶやいた。「久野君、早く片づけないとはじまっちゃうよ」 宮崎はそう言いながら机と椅子...

続きを読む

タイムマインド(潤一編)(77)

 そして文化祭の日がやって来た。天気予報では夕方から雨が降るらしく、みんなで火柱を囲い「マイムマイム」の曲に合わせて踊る、という、文化祭には欠かせない恒例イベントが行われるかどうか、心配だった。小降り程度なら予定どおりだろうが、本降りになるとだめだ。今は晴れているが、これからどう天候が変わっていくかと思うと、僕は内心慌ててしまう。 映画係の僕たち四人は、午前の部に二人、午後の部に二人、それぞれ分か...

続きを読む

タイムマインド(潤一編)(76)

       二十二 宮崎はやっぱり信じてくれなかった。説明だけでは無理だった。期待していたわけではないが、しかし、頑なに拒否されるのは、痛かった。惣一や惣次の人生が否定されたようにも感じられたからだ。 彼女は、僕が前世に左右されていると言った。僕は固まってしまって、何も言えなかったけれど、よくよく考えてみると――しかたないじゃないか、と思う。はじめて会ったときに相手に感じる「一目惚れ」や「第一印象...

続きを読む

タイムマインド(潤一編)(75)

「……なんで、そう思うの?」「痣」 僕は言った。 彼女は眉間にしわを寄せて、痣? と聞き返す。 気分を悪くしないでほしいんだけど、そう断ってから、僕は注意深く言葉を選びながら話した。「翔ちゃんが、宮崎のスカートをめくったことがあっただろ? あれは……つまり、確認したかったからなんだ。翔ちゃんがわざとやったことではなくて、宮崎の足に痣があるかないか、調べたかったんだ」「あたしの左の太ももには、たしかに痣...

続きを読む

タイムマインド(潤一編)(74)

       二十一 あれから二ヶ月が経ち、カレンダーは十一月に変わった。ケヤキや銀杏の木の葉を冷たい風が巻き上げていく。雑踏を行き交う人々はコートの襟を掻き合わせ、太陽でさえ冬に向けて準備体操をはじめる。 そして、僕と宮崎初美はよく話をするようになった。好きな色は? 好きなテレビ番組は? 好きな本は?──僕は少しでも彼女を知りたかったので、たくさん質問した。最初、彼女はただたんに答えるだけだった。...

続きを読む

タイムマインド(潤一編)(73)

 僕はうなずいた。宮崎の足にあった赤いような、黒いような痣を思い浮かべながら。「鳥取の、初瀬家を訪れたとき、アルバムを見たんだ。そのとき、早川愛美の写真を見て、彼女の太ももに痣があることがわかった」「ああ、なるほどな」 翔ちゃんはパチンと指を鳴らした。宮崎に「最低!」と罵られてから、まだ数分も経っていないのに、いつの間にか陽気な表情に戻っている。「痣とか、受け継がれる場合があるものな」 そう、と僕...

続きを読む

タイムマインド(潤一編)(72)

「しっ! 声がでかいって!」 僕は即座に人差し指を口もとにあてた。 翔ちゃんは決まりが悪そうな顔で前方の宮崎を見てから、「なんなんだよ、その変態じみたお願いはよぉ」「勘違いしないでよ。……あることをたしかめたいだけなんだ」「宮崎のパンツの色を、か?」 宮崎初美が愛子さんや愛美の生まれ変わりかどうかを知りたいんだ、と、僕は慌てて言った。「スカートをめくれば、それがわかるのかよ」「うーん……確信があるわけ...

続きを読む

タイムマインド(潤一編)(71)

       二十 夏休みという期間は日増しに時間が加速度を上げていって、はっとしたときには、たいてい終わっているものだ。 僕は今、ぬるい倦怠感と闘いながら、校長の話を聞いていた。まわりの生徒たちもあくびを噛み殺したり、うつらうつらしていたりして、意識はまだ夏休みの中に沈んでいるようである。背筋をしゃんと伸ばしている教師たちには、感心というよりも、あきれてしまう。額に大粒の汗を光らせながら、平然と...

続きを読む

タイムマインド(潤一編)(70)

 そのあと、男性店員のはからいで母は早引けすることになった。 道を歩きながら、僕は、母に話しかけた。「別に家出とかじゃないって。勘違いするなよ」「だって、私を嫌いになったから、出ていったんだと思ったんだもん」 母は下唇を突き出した。いったい何歳だよ、と、あきれてしまうほど幼稚な仕種だ。「っていうかさ、あんなに人が見てるところで泣くなよな。もう散々だよ」「だって、いきなり現れるんだもの、びっくりする...

続きを読む

タイムマインド(潤一編)(69)

 母が働くスーパーは鏡餅みたいにどっしりと腰をおろしていた。中に入ると、主婦とショッピングカートに乗せられた赤ん坊の姿が目立っていた。四台のレジがあり、そのうちの一番奥に母がいた。チェックのチョッキに濃紺のスカートという格好で、顔見知りなのか、客と親しそうに話している。 母がこちらを見たような気がして、僕はとっさに陳列棚に隠れた。見られたらばれるなと思った。が、もう少し仕事に励む母を見ていたかった...

続きを読む