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記事一覧

ありがとうございました。

「異色の二人展」、無事に終わりました。お越しくださったみなさまに心より感謝申し上げます。また、本を買ってくださった方々、付箋に感想を書き残してくださった方々にも感謝です。ひがしもとしろうさんは、ソ・クラテス(「ソ」と「ク」のあいだにナカテン「・」があることに注目!)である。ソクラテスは〝無知の知〟で知られた古代ギリシアの哲学者であるが、ソ・クラテスことひがしもとしろうさんは無心に回帰する画家だ。描...

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タイムマインド(潤一編)(36)

 多摩川沿いで会った「むかつく女」のことが頭から離れなかった。あの射るようなまなざしをずっと思い浮かべていた。むかつくにはむかつくけれど、なぜか気になってしかたがなかった。よくわからない倦怠感のようなものに見舞われ、僕は友だちの誘いを断ってまでして部屋のベッドから動こうとはしなかった。河名愛からも電話がかかってきたが出なかった。このごろメールでさえうっとうしくて返していない。ひどいかもしれないが──...

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前奏曲(絵・ひがしもとしろう)

落ち葉の底に埋もれたさざなみその旋律を聴き分けるために明け方の眠りはあるのかひとびとの足音にまぎれて週末の予定を書き換えるすべがない人の流れに沿って嘘でも一つついてみようかさようなら誰かに会うということは誰かを知ることはできないいつでも汽車に乗り遅れるのだと甘噛みさえも遠い凪の静けさに、身をゆだねる海の見えないことに安堵して窓辺はまだ知らない夜明けをかくまっている...

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タイムマインド(潤一編)(35)

       八 高校の入学式を三日後に控えていた。その日、僕は愛犬ロッベンを連れて多摩川沿いを散歩していた。ロッベンは雑草のにおいをかいだり、道端に落ちている菓子の包装紙に興味を持ったりしながら僕を牽引する。好奇心旺盛なやつだなぁ、と僕は苦笑した。 午前の日差しが気持ちいい。ずっと向こうまでつづいている土手には、ジョギングする青年や肩を並べて歩く老夫婦の姿があった。僕はのどかなこの場所が好きだっ...

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読書日和な人々(絵・ひがしもとしろう)

中村中 - 友達の詩この机のその窓のどこかにあることばの居場所息をとめ海をのぞむように本の向こうをのぞく嘘つきになるのはどっちだどの詩も、詩それ自体がそのたたずまいにおいて〝声と声で結ばれるもの〟を予見している。子どものころの、おおきな翼をもつ夢が、いまや幻想に変わってわたしのまなざしをつまずかせるのか。芯の見えない空を泳いでいた。一匹の魚が跳ねたかと思えば、またページの間隙に引き戻される。きのうの...

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タイムマインド(潤一編)(34)

 中学生になった。次第に父のいない環境にも慣れていった。 新しい友だちができた。どれも違う小学校出身のやつらだった。翔ちゃんとは一言もしゃべらなくなっていた。クラスが離れているせいか会う機会もなかった。彼は将棋部、僕はサッカー部に入部した。 中学校生活はそれなりに充実していた。入学当初はオリエンテーションが連日行われ、憶えなければならないことがたくさんあってとまどったが、日に日に体が適応していった...

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現在地(絵・ひがしもとしろう)

窓を開けると昨日の方角から風が吹いてきて部屋の日暦をめくる明日の日付や明後日の日付が一瞬顔をのぞかせるもののけっして目があうことはない(もしかしたらまどろみのなかで出会う日付のほうがわたしの期待に応えてくれるのかもしれない)路地を転がる空き缶と石垣に置き忘れられた杖ではいったいどちらが遠い忘れものだろうか昨日の記憶と今日の記憶ではいったいどちらが近しいといえるのだろうか...

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タイムマインド(潤一編)(33)

       七 葬式を行う意味がよくわからなかった。来る人来る人、みんな同じ顔つきで気味が悪かった。父の職場の人たちも友人知人もロボットのようにあいさつをして、ロボットのように焼香をすます。白黒の垂れ幕や豪華な祭壇が憎たらしかった。こんな儀式のどこに意味があるのだろう。ただ悲しくなるだけだ。それに、これじゃあ、お父さんが本当に死んでしまったと言っているようなものだ。違う。絶対に違う。これは何かの...

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(ほろほろこぼれるばかりの)(絵・ひがしもとしろう)

ほろほろこぼれるばかりの遠くからの思いがいつまでも消えないのはゆたかなことだとそう言い聞かせながらもこのゆたかさを生かせずにいる真夜中に遠足に出かけたい...

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タイムマインド(潤一編)(32)

 ケータイの着信音が響き、僕は強制的に現実に引き戻された。 ジーンズのポケットからケータイを取り出しディスプレイを見ると、お母さんからだった。僕はクマ先生に、出てもいいですか? と聞いた。クマ先生は苦い表情で、いいよと答えた。電源を切るのを忘れていた僕は、すみませんと謝ってから電話に出た。 お母さんの泣き声が聞こえた。『どうしたの!』 僕は慌ててたずねた。 お父さんが、お父さんが……車に、撥ねられた...

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